第20話 近接戦闘
先に動いたのは名取四郎だった。
四郎は何やら印を組み唱えると、そのまま飛び掛かった。
すると四郎から蒼白い線が細い三日月のように幾重にも繰り出された。
だが男は動こうとはしない。
蒼白い三日月が男の顔を掠めようとするが、寸前で弾かれた様に届かない。
足元は微動だにしていない。
だた男の右腕が僅かに上がった事だけだ。
良く見れば指先を立てている。
その人差し指で四郎の連撃を受けている。
互いの動きが余りにも早い。
もともと眼の良い基経ですら、やっと慣れてきたほどだ。
男の間合いに入った三郎の腕がひときわ大きく鞭のように繰り出されると、キーンと甲高く金属音が鳴り響いた。
三郎は折れた苦無に眼を落とすことなく手から離した。
それを見て男が歯を見せて嗤う。
男は折れた苦無が落ちる前に、音もなく腕を伸ばすと鋼のような指先は既に三郎の眼球をとらえていた。
三郎は右手の甲で指先を流し、左手で懐から取り出した手槍を繰り出すと、男の左掌で刃先を抑え、そのまま掴もうとした。
――刃が徹≪とお≫らない。
そう思う前に四郎は後ろに飛び去り、瞬時に地面を蹴りこんだ。
地面に顔が付くほど低く男の懐に飛び込むと、竜巻のように躰を回転させ織り込まれた右腕を開放すると恐ろしいほどの速さで左足の動脈を切り抜き、蒼白い光が煌めくと、刹那に開放された左手は既に男の顎に切り込まれていた。
宙を舞いながら、翻って虚空を仰ぎ見た四郎の瞳と男の瞳は互いをいつまでも映しこんでいた。
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