第19話 幽鬼


 基経の意識が戻ると空を見上げた。

 だが、灰色だけが果てしなく見えた。

 それは躰を起こし周りを見渡しても、変わらなかった。

 すべての色が消えうせただ灰色の……。

 闇も光もない。

 熱くも寒くもない。

 ただ灰色の世界だけが果てしなく見えた。

 渦の中側には恐ろしい程の静寂があった。

 基経は中心に向かって薄暗い道なき道に歩みを進めていった。

 前に何かを見つけた。

 基経の先には名取四郎の後ろ姿があった。


「親父!」

 基経は叫ぶ。

 だが四郎は答えない。

 眼光の先に見えるのは、倒れこんだ六郎と……三郎。

 否――三郎ではない。

 全身に闇を纏い僅かに輪郭が人型に見えるのは鬼火のような青白い炎が闇と共に全身から漏れ出ているからだ。

 その奥から垣間見える顔は見知らぬ男だった。

 ――若い。

 年のころは二十代後半。

 鍛え抜かれた鋼のような躰があった。

 だが、眼光には冷えた青い炎が幽鬼のように虚ろに浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る