第16話 見切り
基経は下から斜面を怖ろしい早さで駆け上がる影を見つけた。
その速度から見える世界を想像するに己の認識する世界とはまるで違う光景に思えた。
事実、その影は脚を置く空間を予め、用意させたように正確に踏み抜いている。
その正体を見抜くことは出来なかったが、基経はその影を追いかけた。
なぜなら、既にその業を見たからであった。
こうなれば理屈ではない。
何をすれば良いのかは躯が教えてくれる。
精度が必要ならば経験を積めばいい。
理屈はあとから着いてくる。
あとは躯に従えばいい。
それで、風を纏っての疾風ように未知な気道を進んでいる。
だが、尋は少し前から後からつけられているのに気付いた。
それは既に六〇秒を優に超えていた。
「おもしろい。いい早さだ。あなたは何処まで着いてこられるかな」
そう笑うと。
更に速度を上げて駆け上がってゆく。
だが、後の影を引き離すことは出来なかった。
等距離で着いてくる。
気配に顔を向ける。
それはまだ幼さが残る少年の笑顔があった。
尋はそれを見てシニカルな笑みを浮かべた。
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