第13話 赤と青


 対峙する両者の間には一種、不思議なあるいは不穏な空気が流れていた。

 これから雌雄を決し互いに殺し合うのに、いくらか安穏な表情が流れ、しかし剣呑な状況は幾らかも変わってはいない。

 まるで、男の子がする子供のケンカのような純粋な空気がそこにあった。

「では……」

 そう相手の眼に目配せをすると亨はお辞儀をするように間合いを詰めた。

 だが、その刹那、六郎の白刃が唸るように亨の目前に現れた。

 瞬時に亨の眼が光る。

 亨の顔から真っ赤な混が飛び出した。

 刃を打ち落とすと、そのまま、六郎の顔をめがけて閃光のように混が伸びる。

 六郎は避けることもなく、冷静にそれを見つめると、蒼白い白刃が虚空から現れ、その混を横から切り落とした。

 それは一瞬の出来事だった。

 結菜は自身の全能力を総動員して鬼眼を発動していた。

 発動して、それがわかるのが精一杯だった。

「お主、良い混だのう」

 六郎が微笑むと

「あなたの方も良い剣筋です」

 亨も微笑んだ。

「では、こちらも本気を見せるとするかな」

「奇遇ですね。私も本気を見せましょう」

 ふたりは互いの瞳を真っ正面に捕らえると、瞳は赤い光を放った。

 あとは、もう結菜には見えなかった。

 結界による障害もあるにはあったが、それよりも、目の前にいるふたつの力のぶつかりを、ただ嵐が去るのを祈るような気持ちで見つめるしかなかった。

 それは蒼白い円運動と、真っ赤な縦運動。

 その真逆な力の鎬合い。

 それは莫大な数の力で互いを攻め、守り、切り落とし、打ち落とした。

 その永遠とも思える時間の中で、ふたつの渦は一瞬事に戦いの帰趨を互いに換えながら最終的には拮抗する。

 だが、その均衡状態を阻んだモノは、意外なモノだった。


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