第12話 秘密



 三人は長い道程を越えて、ある鳥居の前に辿り着いた。

「目的地に着いたぞ」

 六郎が鳥居を見据えて声を出す。

「此処からは聖域という訳ですか?」

 相馬亨が呟くと六郎は肯いた。

「私も此処まで来たのは初めてです」

 結菜の顔にも緊張が走る。

「では、入るとするか」

 六郎は苦も無く入って行ってしまう。

 残された二人は顔を見合わせると相馬亨、名取結菜の順番に内に入った。

 だが、直ぐに結菜に変化が訪れた。

 頭が左右に振れてしまう。

 脚がおぼつかない。

 三半規管がおかしいのだろう。

 躯の平衡感覚が利いていない。

 いつの間にか上の階段に手が着いてしまった。

 そんな結菜には構わず相馬亨の躯は六郎の後を何でも無さそうについていく。

 だが、その表情には余裕はなかった。

 ただ六郎の背の中心を一心に見つめている。

 鬼気迫る表情で眼だけが見開かれていた。

 無限の様な時間を感じたが、その脚は着実に進んでいった。

 すると開かれた場所に出た。



「これは……」

 見えたのは絶壁を背に大きな社殿が虚空に聳えて見えた。

 それは錯覚ではない。

 社の下を太い大きな柱が縦横に並び、その重さを支えているのだ。

 それは巧妙に岩場の隆起に即した作りだった。

「あの上に我らの守護神が居られる」

「では、あの四神の玄武ですか?」

「いかにも」

「ですが、玄武とは、方角が違うのではありませんか? また、この場所では四神相応とはならないはずでは?」

「うむ。お主の申す通り。この場所では四神相応にはならん。もとより、他の三神が、この辺りには居らぬ」

「では!」

「大昔、大陸から我々の先祖が持ってきたのじゃよ」

「持ってきた?」

「左様。文字通り、その場所から核になる部分を抜いてきた。それが納められておる」

「なんと。それは本当ですか?」

「ああ、本当だ」

「では、元の場所はどうなったのですか?」

「滅んだと聞いておる」

「そんな事が出来るとは、余程の術師。否、奇蹟に近い……」

「ああ、一族の中の天才が、その方法を考案したと伝承にはあった。里の守り神じゃ」

「なるほど、しかし、奇蹟は本来の場所に返すのが筋でしょう」

「ああ、それは筋だが。それには同意が出来かねる」

「どうしてもですか?」

「ああ、どうしてもだ」

「では、その奇蹟とやら返して頂きましょう!」

「ふふふ。そう来たか。しかし、それは呑みかねるのじゃ。まだ里が滅んで居らんのでな……」

 六朗は振り返ると不敵に笑う。

 相馬亨は無表情になり構えをとった。


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