第11話 代役

 


 松葉尋まつばじんは急いでいた。

 友人の依頼をすっぽかしたからである。

 しかし手紙が届いたのが昨日だったが、日程が一週間もずれていたのだから、正確にはすっぽかしたなどと攻められる筋合いではない。

 だが、この不自然さに彼は、得体の知れぬ何かを感じていたのかも知れない。

 なぜ、連絡が取れないのか、それは電話をかけたが繋がらなかったからだ。

 松葉尋は特急券を握りしめると列車に乗り込んだ。


 ――同時刻、名取四郎なとりしろうは里の中を歩いていた。

 六郎の屋敷に向かうためだ。

 しかし、屋敷についても小間使いが言うには六郎は留守だという。

 四郎は仕方なしに六郎の弟である三郎の所に行くことにした。

「これは四郎。どうしました?」

「三郎様、六郎様が居られないのですが、行く先を御存知ですか?」

「いや、今日は何処に行くかなどと聞いては別段おらんが……ただ、結菜ゆいなが昨日の夜に帰ってきておるらしいぞ。親父のお主にも連絡ぐらい入ってきてるだろう?」

「いいえ、結菜からは何も聞いてません」

「そうか……それはそうと、あの腕の立つ若者は何処から呼んだのだ?」

「あれは相馬家の者。はぐれたのを紀野きのの爺さんが育てたのさ」

「なるほどのう。紀野の爺の手の者か、それなら安心じゃわ。随分仕込んだみたいじゃのう」

「ええ、あれは俺でも手を焼く。だから頼んだんだ」

「それにしても、相馬家の血筋が良くもはぐれたモノよな。儂なら、あの若者は手放さないだろうがな」

 そう三郎が呟いたのを聞いて四郎は目を見開いた。

「三郎様。今、相馬の血筋と申しましたか?」

「ああ、言った。あれは相馬の血筋じゃ。たしか相馬亨そうまとおると名乗ったが……」

「それは誠に相馬亨と名乗りましたか?」

「ああ、そうじゃ」

「御免!」

 名取四郎は三郎の言葉が届く前に屋敷を出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る