第10話 残滓

 基経もとつね四鬼しきという術を理解し始めていた。

 器用貧乏とは良く言ったモノだが、基経には当てはまらなかった。

 わざを見れば見るだけ強くなる。

 言い換えれば負けても生きてさえいれば、最期に立っているのは基経の他にない。

 本質を見極める眼。

 言わば鬼の瞳が、ことわりを見抜く。

 それ故のごう

 一晩中、座禅をしながら思案に暮れていた。

 それももうお終いだった。

 夜が明けたからである。

「なんとか理解できた……」

 それだけ虚空を見ながら呟くと立ち上がった。

 既に名取三郎なとりさぶろうは消えていた。

 だが、まだ三郎の残した残滓ざんしは今だ赤く燻っていたが、基経が手を差し向けると赤い燻りが吸い込まれるように掌に吸い込まれていった。

 それから数秒後に、基経は三郎が最初に出したような炎の球を掌から生み出した。

 しばらく基経は見つめていた。

 すると、その炎の球は静かに動き始め、基経の全身をゆっくりと這うように、全身を隈無く一順した。

 基経は、炎を最後に右手の掌に戻した。

 その炎を暫し見つめると、掌を口元に持っていき、糸のように細い息を吹き替えた。

 すると、その炎の球は基経の直線上にある大きな木の前にゆっくりと流れて程なく止まった。

 それは木の前で止まり、ゆっくりと安定した炎となった。

 それを見届けると基経は踵を返し里の方へ歩き始めた。

 炎の球は先程の火力を落とすことなく、木の前で何時までも燃え続けていた。



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