第7話 自惚れ


「親父。話が見えん。託すって誰にだよ」

「坊主。そう急くな。お前には気の操作を教えたはずだったがな……」

 そう片眼を瞑った。

「気の基本は出来るようになった。身体を廻す方だって完璧だ」

「ああ、お前の気の操作は完璧だった。それを外に切り離して出すのも、教えた中じゃ最も早く習得できた。だが、それはお前の身体だけのわざに過ぎん」

「じゃ、どうすれば良いんだ?」

「うむ。お前の眼を使って俺を見てみろ」

「そう言われても」

「俺の気力はどの位ありそうだ」

「さっきの術なら千は優に出せそうだ」

「うん。そんなモノか。お前は自分がどの位、気力を使えるか自分ではわからん様だな」

「確かに俺は自分の姿は見えん。だからわからん」

「それなら、俺の眼を見てみろ。それなら、お前が自分自身を見れるだろう」

そう言われて、基経もとつねは四郎の瞳を見た。

「これは……」

「そうそう。お前の気力は俺の倍はある。真面目に取り組むのがお前の良いところだ。良く練り上げたな」

「しかし、俺は親父のような火焔を作ろうとしても百も作れん。それが今、わかった」

「それはそうだろう。修練が違う。しかし、それが分かるお前の眼は本当に良いモノだぞ。ウチは専門じゃないがな、名門の術師なら持っているという鬼の目、つまり『鬼眼きがん』をお前は生まれながらに持っているんだ。先祖に感謝しろよ。五代前の方で名を名取基経という。まあ、それがお前の名の由来だな。まあ、話はずれたが、その眼で、他のモノを見て見ろってことさ」

 そう呟くと、四郎は掌の上に黒い球を出した。そのまま、息を吹きかけると黒い球は四散した。すると先程まで燦々と降り注いでいた月光が消えて辺りは本物の闇に落ちた。

「何が見える」

 もう四郎の顔は見えない。

 ただ声が聞こえるのみ。

 基経もとつねは瞳を凝らした。

「蒼い光が見える」

「うむ。それが答だ」

「すべてのモノには流れがある。その流れを掴む事。つまり把握することで、あらゆるモノと繫がりが持てる。ならば、少しぐらいの気の流れは相手に願うことで聞いて貰える。

ただ間違えてはならぬのは、それは願うことであって命令ではないと言うことだ。少しだけ借りてゆく事を許して貰えるかだ。そうすれば、森羅万象が味方をしてくれる。ならば無敵だ。理屈としてはこれだけだ。しかし、己の力などちっぽけなモノだと分からぬうちは、この境地にたどり着けんがね」

「お前が倒したあの男は、これをモノにしておるぞ」

「野郎、狸寝入りかよ!」

そう地団駄を踏んで悔しがった。

「ああ、奴はお前にやられてはいないよ」

 そう四郎は微笑んだ。

 基経もとつねは己の自惚れと不明を恥じた。



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