第5話 禅問答



「これで良いのか。意外に難しいな」

 名取 基経もとつねは緩やかな蒼い月の光を受けながら思案していた。

 此処は山里から少し離れた場所にあった。

 相馬 とおると対峙した場所に似て開けた所だった。奴の言う『シキ』というわざのイメージは掴んだが、果たして、誰をうつして、この棒を持たせればよいか……。

 それは自分ではない。

 誰かの形が……。

 そう思いながら、基経もとつねはある種の面白さを感じていた。

 それは想像の中に無限とも言うべき奥行きを感じ始めていたからだった。

 このわざにはその様な可能性が感じられた。

 だが、不思議だったのは引き出されるモノが何処から来るかだった。

 それは自分の内からでたモノなのか、または自分の内面と外見の境から導き出されたモノなのか、それとも皮膚の上から僅かに離れた空間から引き出されたのか。

 ――それがわからない。

 自分が、ただ使えると言うだけで、何の理解もしていない。

 こんな風にいつも感じてしまう。

基経もとつねは術理を重んじる為、日常的にこんな事を苦悩していた。

 親父には言われていたな。俺の特技は、この目だと、この目が捕らえたモノが物事の本質なのだと……。

「おい。禅問答をしてるのか?」

「なんだ親父か……」

「なんだは連れないな」

「親父。もちろん『シキ』って知ってるよな?」

「ああ、知っている」

「なぜ、教えてくれなかった?」

「特に理由はねぇな。強いて言うなら、お前の眼には物事の本質が見えるからな。要らぬ講釈を垂れて物事を語っては、逆効果だと思ってな……。だから四鬼しきはお前の見たとおりだ。それ以上でもそれ以下でもない。それが真実だよ」

「なら聞くけども。この力は何処からやってくるんだ? この身の内か? 外か? それ以外か?」

「良い質問だ。答を言うなら、全て正解だ」

 基経もとつねは目を見張った。

「要は心の持ちようって事だ。それは、お前自身が感じている事だと思うが、自分の内にある力なんていのは、直ぐに使い切っちまう。だからといって外から借りるにしても簡単には相手が見つからない。だから一瞬でしか使えない。それをどうするか、またはどう考えるかだな」

「どうしたら良いんだ?」

「それはお前自身で答を導き出せ。それが今のお前には一番必要な物だからな」

「教えてくれねぇのかよ! ケチめ!」

「ほう。それほど言うなら、少しだけ手合わせをするか?」

 そう言うと名取四郎は基経もとつねを見据えて構えを取った。


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