第4話 ふたりの六郎

 


 男は目を覚ますと天井が見えた。

 どうやら布団に寝かされているらしい。

 明かりは僅かな灯明が2本あるのみである。

「ここは……」

「おきたか」

「貴方様は?」

「儂は此処の長よ」

 それを聞くと男は布団から起き出て呟いた。

「貴方様が高名な名取六郎殿ですね。初にお目に掛かります」

「お主、擬態じゃな」

 ギロリと落ち窪んだ大きな目に赤黒い光が宿った。

「やはり、ばれておりましたか……」

「まぁのう。どうやら下の者は信じておったようじゃがな」

「すみません。こうでもしなければ懐にははいれませんので……」

 そう呟きながら男は頭を掻いた。

「したたかな奴じゃのう。お主名前は?」

「相馬 とおると言います」

「儂が八代目、名取六郎じゃ」

「お目通り有り難う御座います」

 そう頸を差し出すように深々と頭を垂れた。

「なるほど、相馬家のモノか?」

「いえ、既に相馬家からは出ております」

「ふむ。お主何が目的じゃ?」

「己を試しに来ました。また術を御教授頂きたく思います」

「ふむ。考えておこう」

「ありがとうございます。是非、名取六郎様にお伝えくださいませ」

「なんだと?」

「貴方様の意識が私以外に向いております。ふたりしか居らぬにも関わらずです――ならば答は明白でしょう」

「大した洞察力だ」

 そう声が奥から届いた。

 襖が開かれる。

 其処には同じ顔があった。

「儂が名取六郎と申す。これは弟の三郎じゃ」

「お目通り有り難う御座います」

「うむ。合格じゃ。お主の願いは聞き届けよう。奥伝を授かるまでいつまでも居られるが良い」

「ありがとうございます」

 相馬亨は、もう一度深々と頭を下げた。

 それから、名取三郎が客間から離れていくと、名取六郎と差しで話しをした。

「ところで、あの少年はどうしました?」

「おお、基経もとつねの事か?」

「はい」

「あれは、お主を抱えて返ってきたら、直ぐに飛び出していきおった。どこぞで業をねっておるんじゃろうのう」

「見切りですか?」

「うむ。お主もやられたみたいじゃのう」

「面目、御座らぬ。しかし、初めて見た術を術式も分からず、あれほど正確に模倣が出来るモノを知りません」

「あれは特別じゃからのう。あれに真似されぬわざは今の所無い。つまり見せたら終わりということじゃ」

「――死ななければですか」

「うむ、わざを見て死ななければじゃ」

 ふたつの瞳は示し合わせたように瞬時に重なった。



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