第3話 残像



「さて、今度は私から行きましょうか?」

「いつでも良いぜ。掛かってきな!」

「それは面白いことを聞きました!」

 男の細い目が見開かれると、次の瞬間、男は音だけ残して消えていた。

 そして少年の目の前に男の半棒が現れる。

 少年は掠めるような間合いで男の連撃を見切るように躱し続ける。

 だが、それも男の連撃のスピードが上がれば、避けきれなくなり、少年は間合いを取るために後に飛ぶ。

 しかし、男の半棒は少年から離れようとはしない。少年は刀を抜こうとするが、半棒で柄を止められ鞘から抜く事が出来ない。

「こなくそ! ちょこまかと!」

「抜かせませんよ」

 ――だとすれば、少年は、そのまま間合いを後方に取る以外にない。

 それも後に崖が見えた。

 酷く高い場所から眼下に見えるのは谷間の清水だけ。

「そろそろ終わりです。この半棒で、このまま絡め取られるか、もしくは崖を落ちるのか選んでください」

「こなくそ」

「さあ、これでおしまいです!」

 男の勢いに乗った突きの先に少年の喉を捕らえていた。

「うおおぉぉぉおお!」

 そう少年が咆哮する。

 突きは少年の喉を突き破っていった。

「勝負ありました」

 男は呟くと微笑んだ。

 しかし、少年の姿は幻のように崩れ去り。

 男の傍らに少年の姿があった。

 開かれた男の躯の左側に位置していた。

 それは死角だった。

「見切りと言いましたか?」

「ああ、見切りだ。ただの猿真似だがな」

「しかし、一本は出せましたか。いや、一本も、と言った方が良いのかな。それに脚には起こりも見えなかった……それが僕の敗因ですね。言い訳ですが……」

 そう呟くと男は地に崩れ落ちた。

「あんたは人がいい。追い詰めたときに、さっきのをやられてたらまるで話にならなかった。これがシキという技か……」

 そう少年は呟くとその場に座り込んでしまった。

 驚くほど気力が抜けてしまっていたからだ。

 気が付くと、いつの間にか夜のとばりが降りていた。



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