第2話 見取稽古



「おっさん!」

「起きましたか少年。まだ僕はおっさんと呼ばれる歳じゃないよ」

 少年は、また同じ空を見ていた。

「なにをした?」

 頸だけやっと動かしてそれだけ呟いた。

「ああ、それは四鬼しきを少しだけ」

「シキ?」

「惚けられては困ります。先程、貴方が使ったのは紛れもなく四鬼しきですよ。それも隠鬼おんきの類ですね」

「オンキ? 俺は何も使ってないぞ。使ったのは、この前――親父から盗んだ分身の術だけだ」

「ほう。貴方、知らずに使っていたのですか……と、言うより四郎殿もお人が悪い。体術比べならいざ知らず、そのままでは、まともな鬼には勝てませんよ。しかし、この技、四郎殿には使って見せましたか?」

「いや、親父を吃驚させてやろうと思って、隠し球にとっておいたんだが、おっさんが意外に強かったんで。つい使っちまった」

「なるほど合点がいきました。だから、あれ程、見え透いていたのですか……」

「いっている意味が、よくわからねぇな。何が見え透いていたって?」

「あ、えっと、つまりですね。脚に気を集めるのは良いことですが、それだと次の動作が判るというか、読めてしまうんですよ」

「なるほど、本物の使い手は、隠すもんなんだな」

「ええ、本物はね。四郎殿も脚に輝きなんかは出てなかったでしょう」

「ああ、確かにあの時の力場は一瞬だけだった。完璧には『見切り』が出来てなかったんだな」

「見切り?」

「俺は目がいいから、どんな技でも一度見れば使えるんだ。だからアンタの技もたぶん使えると思うぜ」

 少年はみぞおちを抑えながら、ゆっくりと起き上がってきた。

「ほう。高度な見取稽古と言うことですか。ですが、この業を写し獲った、見切ったというのは、少しばかりおこがましいですよ」

 男は岩から立つと立てかけてある半棒を手に取ると構えを取った。



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