鬼祓い師 名取基経

鷹野友紀

第1話 棒術



 少年が瞳を開けると空は既に夕刻だった。

 視線に斜めの光が入って来ていた。

 背には地面の温度が感じられる。

 でもまだ動くことは出来ない。

 躰に力が入らない。

 其処まで考えて自分が気絶していたことを思い出す。

 少年は反射的に飛び上がって身構える。

 背丈は五尺半ほどだろうか、少年の眼光が燦めいた。

 目の前には男が居た。

 座っては居るが、背丈は六尺ほどあるだろう。

 正確に言えば、少年は山の中の少し開けた場所の中心に位置し、男は少し離れた場所にある岩の上に腰掛けていた。

「ははは、さすがですね。さすがは名取流。鍛え方が違うのかな。それとも血筋ですかね」

 男は黒装束に身を包んで、手を叩いて喜んでいる。傍らには五尺ほどの半棒がおいてある。

 男は腰まで届くような長髪で眼鏡をかけていた。

「そんなんじゃない。まだまだ本気は出していないぜ」

「ほう。はったりですか。年の差を考えてみなさい。私は貴方とは八つも年が離れています。よって勝てぬのです。簡単に言えば経験が不足なのですよ」

「ふん。立たせてしまったな。本気で行くぜ!」

 そう少年は足が輝いた。

 ――同時、地面が足の形にめり込んだ。

 既に少年の姿は何処にも無い。

 刹那――岩に座る男の目の前にあった。

 否、目を凝らせば周りには幾つもの少年の姿が垣間見えた。

 男は眼を瞑る。

同時に、少年の腰元から蒼い光が閃いた。

 男の頭に八つの刃が降り注ぐ。

 だが男は動くことない。

 ただ羽織った黒い外套だけが鋭い波を打った。

 刹那、降り注がれた刃が消え失せ、いつの間にか遠くに弾き飛ばされた少年の躰があった。

 もう少年の躰は起き上がっては来なかった。






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