第 三 章 4
鈴鹿が
また会う約束をして監督と別れた後、あたしは広大なパドックを歩いて回り、知り合いを見つけては森屋について尋ねる、ということを繰り返した。
みんな一様に、なんで今頃になってと
あと、あたしを心配してくれていた人は監督だけじゃなくて、繰り返し反省した。
そうして浮かび上がったのは、あたしの知らない森屋だった。
森屋がパドックでケンカをした、とは監督から聞いたけど、にわかに信じられなかった。サーキットにいるレーサーは全員敵。なんてのまたう男だったけど、ケンカするのはコースの中でだけ。そういう分別は持ち合わせていた。
結論から言えば、本当だった。ケンカの相手に会うことができた。
イライラしているかと思えば、生気の欠片もない顔で「生きている意味がない」とか「天才には敵わない」とか、ネガディブな言葉を口にして、すっかり元気を無くしていることも増えたらしい。
監督に実家に帰ることを勧められ、なにも言い返さなかった森屋。
あたしの知らない、弱気で、不安定な森屋。
人生を懸けて、自分の才能を試すと言っていた森屋。
話しを聞いているうちに、あたしは気が滅入ってしまった。
テーブルに肘をつき、手のひらを額にあてる。
「あのバカ…………」
あたしは、自分で思っている以上に、森屋の自殺が否定されるのを期待していたんだ。期待は裏切られ、自分でも驚くくらい参っている。
「ここ、いいか?」
顔を上げる。トレイを手にした晶だった。
自分のトレイを引いて場所を
あたしは疲れていたのと眠いのとで、口を塞ぐように頬杖をついて黙っていた。晶はカレーを黙々と口を運び、あっと言う間に半分ほど平らげてしまった。
あたしは、ふっと鼻で息をつくように笑んでしまう。晶は昔から
「晶、犬食いになってる。その癖直しなって前から言ってるじゃない」
「え?」と手を止めて、上目遣いをあたしに向ける。
こうなさい、とあたしは自分の背筋を伸ばして見せる。
「お、おう」晶は大げさに背筋を大げさに伸ばしてみせて「海って躾とか厳しいよな」
「まぁね」
おばあちゃんがしっかり躾けてくれたし、社長も行儀にはうるさい。
カレーを平らげ、水を飲んで落ち着いたのを見計らって、あたしは口を開く。
「この間は、ごめんね」
すると晶はあからさまに安堵した顔になって、ちょっと可笑しくなってしまう。レースの時は、怖いくらい精悍な顔つきになるのに。
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