第 三 章 5



「俺の方こそごめん。俺、てっきり海はもう大丈夫なのかなって勝手に考えてた。そうだよな、まだ一年だもんな。大切な人亡くして一年で大丈夫になれるわけないよな。ほんとごめん。無神経だった――」


「ちょ、ちょっとストップ、晶ストップ!」


 どんどん早口になる晶をあたしは体を乗り出して遮る。


「あのさ、晶誤解してる。あたしと森屋とはそういうんじゃないんだって」


 晶の口が「でも――」と開きかけて、あたしは重ねて遮る。


「トランポを共有してただけ。付き合ってないし、森屋のこともなんとも思ってなかったし」


「で、でも、おまえらトランポ、一緒に使ってたじゃん……」


 いじけたように晶は言って、あたしは思わずため息をついてしまう。


「あたしがそういうのあんまり気にしないの知ってるでしょ。それに……森屋とは別になんにもなかったし」


「…………じゃあ、なんであの時怒ったの?」


 晶が恐るおそる訊いてくる。


「別にあたし、怒ってたわけじゃ……」


 森屋とのことは、もう話さないわけにはいかないし、晶に聞いてもらいたいって気持ちも少なからずあった。森屋のことを話して聞かせると、晶は肘を突いた腕で頭を抱え、言葉を探すように、しきりに瞬きする。


「わりぃ……なんて言えばいいか、わかんねぇ」


 それで、いいと思うよ。


 あたしも、ついでとはいえ鈴鹿くんだりまで来て森屋のことを訊いて回ったり、ほんとなにがしたいんだろう…………。


 いや、あたしは納得できないんだ。


 レースができなくなった。それはレースに人生を懸けていた森屋にとって、耐え難い苦痛だっただろう。でもだからって、自殺なんてあり得ない。だって、あいつは――


「海は、知りたいんだよな。事故だったのか、そうじゃなかったのか」


 少し考えてから、あたしは頷く。


「それ、手伝うよ」


 あたしは思わず晶に顔を向ける――なんで?


「俺は、正直あいつのこと好きじゃなかったけど、でもあいつとレースしたよ。拳ぶつけあったことだってある。仮にもレース仲間だよ。自殺じゃないなら、あいつのためにも、そうじゃないってはっきりさせてやりたいし、あいつの本当のこと、俺も知りたい」


 そうだ。これはあたしだけの問題じゃないんだ。


「それでさ…………森屋のことが、海の中で大丈夫になったらさ、俺のこと、ちょっとは考えてくれないか」


 晶のことを考える? あたしはきょとんとしてしまい、晶は目を伏せて言った。


「俺もう、自分のヘタレで後悔したくないんだ。俺のことで海を巻き込むっていうか、迷惑かも知れないけど、そうするしかないから……。俺、ずっと待ってるから」


 ちくりと、胸が痛む。


「……わかった。ちゃんと考える」





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