番外編
エレイ先生の場合は(1)
私は、学院長室の扉の前にきていた。
昼休みにいつものように職員室でご飯を食べていたとき、秘書のセイルさんから、放課後にくるようにと連絡を受けたからだ。
オケアノス学院に教員として来たときに、ヘリオス学院長と二人で話をする機会があったけど、それ以降にこういった一人だけ呼び出されるという事態は今回が初めてで。
特に何かをした、ということはなかったはずだけど、学院長という響きとこの場所に自然と緊張している。
「ヘリオス学院長、エレイです」
「うむ、入ってくれ」
重厚な扉をくぐり、踏み入れた部屋の中は就任の挨拶で訪れた日と何も変わっていなかった。
一番奥の椅子に悠然と腰掛ける、長命種であるエルフの特徴ともいえる、成人後の外見があまり変わらない若々しい姿。
家具の配置も前回とまったく一緒。
その中で、奥の部屋から紅茶を持って現れた人である秘書のセイルさんだけが、時を経ているのではと錯覚する。
変わらないことと変わったことの奇妙な感覚を感じながら、指示されたソファに腰掛ける。
「すまないな、急に呼び出して」
「いえ、大丈夫です。それで、用件とは?」
「明日なのだがな、君のクラスに一人、編入生が入ることになってな」
なるほど、と、どこか緊張していた体から力が抜ける。
そう言う理由であるならば、呼ばれたとしても納得できるからだ。
それにしても、四年生からの編入生とは、珍しい。
オケアノス学院は、世界最高峰の学び舎と称されるほど、生徒の学力が高い。
しかし、入学するのが大変かと言われればそうではない。初等学の一年からの入学であれば、読み書きから簡単な計算、基礎体力作りや礼儀作法など、三年をかけてきっちりと学習できるからだ。
初等学の一年から三年までは、そういった一般常識と呼ばれる部分の学習になるため、生徒にしてもそれほど学力に差が生じることはない。
学力に明確な差が表れ始めるのは、初等学の四年以降となる。
薬草楽や魔術学、剣術や魔法など、専門的な勉強が始まるからだ。
どの分野も世界的に有名であった人が教師として教鞭をとっていることがほとんどであるため、その授業内容は学年が上がるほど難しくなる。
いわば、初等学の三年まではそのための準備期間であり、三年間をかけて基礎を作り上げているのである。
それをせずに初等学の四年から編入をすると言うことは、それなりの知識を要している必要があり、編入試験自体も難しく作成されている。
去年、初等学の三年に編入してきたミリィでさえ、同時に受けた初等学の四年の編入試験はやっとといったところだった。
彼女自身は初等学の三年で学ぶ、魔術学の基礎の授業を受けたいと強く希望していたため、特に問題はなかったが。
「とても、優秀なのですね」
「確かにそうなのだがな。ちと、問題があってな」
「問題、ですか?」
ヘリオス学院長の言葉と、その本当に困っているといった表情に、思わず口元が引きつったのがわかった。
そしてそこから話される、編入生についての問題の内容に、私は頭を痛めることになる。
ネモア・グリサラーサ。
私のクラスの生徒である彼は、良くも悪くも有名な生徒であった。
グリサラーサ家というノシルフィの貴族ではあるが、ノシルフィの貴族の中では平民ととても友好的な付き合いをしている貴族である。
カフォス王が制定した後見人制度をいち早く取り入れ、それ以前にも孤児院への寄付を自発的に行っている、平民から見れば良い貴族であった。
このオケアノス学院を設立する際も、寄付金を自ら申し出ていた。
ネモアもその家風に違わず、物腰柔らかく、まだ今年は始まったばかりではあるが、学力についても優秀といえる。
悪く、と表現はしたが、ネモア個人が悪いという訳ではない。先に述べたように、ネモア自身はとても良い生徒なのである。
ただ、彼の師匠と呼ばれる彼女が問題なだけであって。
今回のことも、彼女の所為で起きた転移の魔法陣の誤作動であるので、彼女はネモアにとっての貧乏神か疫病神の類ではないだろうか。
「しかし、自分のいた場所の名前もわからないですか……」
ネモアが嘘をついているとは思わないが、いささか違和感を覚える言葉ではある。
オケアノス学院では優秀な教師を探すため、各地に赴いているが、ネモアと編入生の話では勉強は村の人が教えてくれていたという。
常識的な部分がわからないのは、閉鎖された土地であったためらしい。
エルフであるヘリオス学院長を見たときに、驚いていたことから、人か外見の近い種族しかいなかったのか。
「まぁ、そう心配しなくても良い子だよ。ただ、気にかけてやってくれないか」
「はい。わかりました」
柔らかい笑みを浮かべながら言うヘリオス学院長に、私はしっかりと頷いて返した。
事情などはあるだろうが、私の生徒であることに変わりはないのだから、当然のことである。
突然、知らない場所に呼び出されたことで、精神的に不安定にもなっているかもしれない。
私の中では、その編入生に楽しい学院生活を送らせて見せるという、小さな目標ができていた。
次の日、いつもよりだいぶ早い時間に職員室についた私は、編入生に渡す教科書や備品の確認を行っていた。
初等学の四年からは授業の種類が一気に増えるため、教科書だけでも相当な冊数になる。
その中から、今日の授業に必要な物だけを運びやすいように袋に入れ、他の物は寮に帰るときに取りに来てもらうことにした。
各担当教師に編入生が来ることと経緯を説明して、暫くは気にかけてもらえるようにお願いした。
それらすべてが終わると、そろそろ来るかと思われる時間だった。
再度、机の上の荷物を確認すると、ドアの開く音と共にネモアの声が響いた。
「失礼します。エレイ先生は居ますか?」
「はい、すぐに行くわ」
職員室の入口に目を向けると、ネモアの姿とその後ろに静かに立っている人の姿が見える。
ネモアの後ろにいても、しっかりと見える顔に、ネモアより頭ひとつ分大きいことがわかる。
この辺りではあまり見ない、黒髪黒目に白っぽい肌、ネモアの二つ上か三つ上ぐらいだろうか。
スッと伸ばされた姿勢と、一度だけ職員室内を見回しただけの落ち着いた雰囲気から、見た目より年上なのかもしれないな、と感じる。
「学院長から話は聞いているわ、君がケースケ君?」
「はい。ケースケ・ク・グリサラーサです。よろしくお願いします」
「うん、礼儀正しくて良いわ。担任になるエレイよ。何か困ったことがあったらすぐに言ってね」
小さく頭を下げたケースケは、ヘリオス学院長が言っていた通り、良い子だった。
常識的な部分の知識がないという話だったが、礼儀作法は問題ないし。
魔法というものを今まで見たことがなかったようだが、街から離れた場所では珍しい話ではない。
一度も魔法を見ずに生涯を終えると言ったことも、そうありえない話でもないのだ。
ただ、質問の内容には感嘆させられた。
こちらが述べた最低限の情報から、可能性に気付き、的確に告げられたそれに、これは想像以上に優秀な生徒かもしれない、と。
一通りの説明を終えて、教室に移動する。
自己紹介の後に少し声が上がったが、転移の魔法陣の誤作動で突然に生活を一変させられたケースケに、クラスメイトの感情は同情的だ。
ケースケ自身は、それにはにかむような笑みで返していた。
柔らかく包み込むようなそんな雰囲気に、何人かの女子生徒が頬を染めているのを見た。男子生徒も友好的だ。
この分であれば、クラスの子たちとはうまくやれそうだと、一安心する。
一限目は薬草学のレフィ先生だ。
レフィ先生の薬草学に関する知識量は素晴らしく、かつ教師としても大変わかりやすく説明してくれるので生徒に人気のある先生だ。
その代わり、自分の授業に興味のない生徒には厳しいことでも有名で。
二限目の前に、レフィ先生に感想を聞いてみよう。
ケースケはとても優秀な生徒だった。
レフィ先生は初回の授業でケースケの思考力がとてもお気に召したらしい。以降、自分の研究室に呼んではお茶をしながら話をすることもあるらしい。
他の授業についてもそうだ。
魔法陣の授業では授業中に行った小テストに全問正解をした。まだ、比較的単純な初級の魔法陣しか習っていないからかもしれないが。それでも、数としては三十余り教えていて、そのすべてを覚えていたことになる。
図書室でファンと調べものをしている姿も良く見られ、民俗学の教師が授業外で質問された内容の濃さに純粋に驚いていた。
唯一、剣術のジル先生が「体力と筋力がなさすぎる」と初めの頃は嘆いていたが、最近では「剣の筋が良い」と褒めていたのを聞いた。ウィズと練習をしている姿も良く目についていた。
交友関係も問題なく、ネモアとの繋がりで、ウィズ、ファン、ミリィの三人と仲が良いが、他の生徒とも談笑しているのを何度も見かける。
授業での実験ともなると、同じ班の子に的確に指示を出している姿が印象的だった、という話も少なくはない。
班長向きというのだろうか、かと言って命令をしているのではなく、お願いをしている形なのがとても好印象なのだ。
「エレイ先生! ケースケ君がっ!」
問題どころか、出来すぎるケースケに、私はとても安心してしまっていた。
初めは、あれほど気にかけていたのに、今はケースケから何か言われるまで何もしないでいた。
それが『魔力切れ』という、一歩間違えれば最悪の形で現れるなんて、とても思っていなかった。
だって、魔力は体内エネルギーで、それを使い切ればそうなるのは、子供でも知っている常識的なことだったから。
その常識をケースケが知らなかったということを、忘れていた。あまりにも、ケースケがなんでもできるから。つい、知っていると思ってしまっていた。
「ごめんなさい……」
私は床に両手をついて頭を下げながらそればかりを繰り返していた。
私は魔法学の基礎を教えているのに、魔力切れという一番大事なことをケースケに教えていなかった。
魔力切れや魔力については、一般常識の範囲であるため、初等学の一年から三年の間に何度も説明がある。
ヘリオス学院長に注意されていて、さらに私はケースケが魔法を知らなかったことを知っているのに。
本当に、教師として失格だ。自分の生徒を危険な目に合わせるだなんて。
自然と目の前にぼやけた膜が張り、それをなんとかこぼさないように唇を噛んで耐えていた。
「エレイ先生、一先ず落ち着いてください。話をしましょう」
そうやって声を掛けられて、あげたいのに涙で濡れた顔を見せることが出来なくて。
しばらく、ケースケの優しい声での慰めを聞くことしか出来なかった。
私は何をやっているのだろう。
「ごめんなさい。感情的になってしまって……」
なんとかこぼれる涙を止めた私は、ケースケと視線を交差させると言葉を告げて息を吐き出した。
それに、少し困ったように眉を下げたケースケはゆっくりと口を開く。
「いえ、大丈夫です。あの、それで、今回の魔力切れのことをエレイ先生は謝っているのですよね? でも、これは俺の自業自得というものではないかと思っているのですが」
優しいそんな言葉に、私の胸はギュッと締め付けられる。
自業自得と言って終えばそうかもしれない。ケースケは知らなかったのだ。
それを私は知っていた。
さらにはヘリオス学院長から注意も受けていた。
ケースケが優秀であるからと、問題ないと勝手に思い込んでしまったのだ。
結果、やるべきことをやらなかった私が悪いのは、誰の目から見ても明らかだろう。
そう頭を下げる私に、どこまでもケースケは出来た人間だった。
「エレイ先生。魔法の基礎や常識を教えてください」
命の危険に晒した私に、罵られてもおかしくない私に、ケースケは真剣な目でそういうのだ。
このとき、私はもう一度思った。
ケースケに学院生活を楽しんでもらえるよう、私の全力を持って臨むと。
ケースケの提案で始めた補習は、改めてケースケの優秀さを実感させられることになった。
初等学の一年から三年の内に授業で教えられる、魔法学の基礎と世界の成り立ちなどを主に補習の内容としていたが。
理解力の高さと的を射た返答や質問に何度も驚かされた。
授業終了後の三十分を目処に補習を続けていたが、当初の予想では二ヶ月はかかると考えていた補習の範囲を一ヶ月と少しで終わらせてしまうのだから。
使用していた教室の鍵を閉めると、補習のために準備してきていた資料を両手で抱える。
始めた頃は片手で持てる量だったが、ケースケの質問内容は深いものが多く、ついつい私自身も気になって調べ始めると、日に日に持ち込む資料の数が増えていった。
ケースケは手伝いを申し出てくれたが、開いた時間などにジル先生から剣術の稽古を付けてもらっているのを聞いていたので、まだまだ子供には負けないわよ。と、答えて断ったのだが。
なんとも言えない微妙な顔をされたが、あれにはどういった理由があったのだろう。
「エレイ先生」
職員室について自分の机に資料の束を置いて一息ついた私は、背後からかけられた声にゆっくりと振り返った。
すぐそばに立っていたのは、薄いフレームの眼鏡を掛けた、釣り上がった目が印象的な少し神経質そうな見た目のイアン先生だった。
イアン先生は、私と同じく魔法学を教えている。
オケアノス学院の初等学の四年からは広く様々なことを学び始める。そのため、学年ごとに各教科の担当教員がいることがほとんどだ。
私は四年の魔法学と数学と語学、イアン先生は五年の魔法学を担当している。
私はこのイアン先生が、少し苦手だ。
「また、生徒と二人で補習を行っていたのですか」
また。の部分が、やけに強調されているように感じる。
怒鳴られている訳でも大きな声を出している訳でもないのに、神経質そうな見た目にあった少し硬く高い声は良く響く。
そもそも、なにも最初からイアン先生のことが苦手だったわけではない。
オケアノス学院の教員のほとんどが、元学者や元研究者であったり、元騎士であったりする。
私も教員になる前は魔法陣の研究をしていた。あまり大きくない研究所でだが。
そして、魔法陣の研究をしていた私が一目見てわかるほど、イアン先生は魔法陣の研究者として数々の研究結果を世に出していた、優秀な研究者だ。
教員として職員室で挨拶をした時に、イアン先生の姿を見たときの衝撃は今でも忘れられない。
てっきり、どこか大きな研究所で働いているものだと思っていたから。
担当教科が同じこともあって、イアン先生がついてくれることになった。
憧れもあった私はそのことが嬉しくて、授業の進め方などより、イアン先生が発表した研究結果の話ばかりしていたように思う。
イアン先生自身もとても楽しそうに話してくれていた。
オケアノス学院では教員に対して、ある程度の特典が用意されている。
学院内に用意されている施設や設備の個人利用が可能で、申請して許可が降りれば、研究材料の費用を負担してもらえる。
イアン先生がオケアノス学院で教員として働いている、一番の理由がそれだった。
世界最高峰の学び舎と称されるオケアノス学院の施設や設備は、下手な研究所より質が良い物が用意されている。
図書室に関しても、世界各国から様々な児童書から専門書までが集められ、常に閲覧可能な状態だ。
教員寮は普通の部屋より頑丈に作られていて、個人の研究室としても問題ない。
研究所で研究員として働くと、自分の調べたいことが調べられない。
そう、ぼやいたイアン先生に、私は頷いていた。
同じ研究をしている者として、私とイアン先生は早くに打ち解けていたと思う。放課後に、研究の内容について討議をしていた時期もあった。
だけど、私が教員として勤めて三年。
初めてクラスを受け持った生徒が、進級して三ヶ月ぐらい過ぎたときだった。
放課後に一人の生徒から相談を持ちかけられたのは。
魔法学の授業がわからないのだと、涙ながらに告げてくる生徒に、私は酷く動揺した。将来、魔法陣の研究をしたいのだととても頑張ってきていた生徒だったからだ。
イアン先生は授業中以外の質問を一切受け付けない。更に授業中の内容以外の質問も受け付けない。前回の授業の質問ですら、現在の授業の内容に一致していなければ、つき返す。
相談に来た生徒は、一度、風邪でイアン先生の授業を受けられない日があり、その後の授業についていけなくなってしまったらしい。
それを聞いた私は、イアン先生に補習をしてもらえるようにお願いにいったのだが。
「私は教員としての役目は果たしています。補習は完全なる時間外です」
そう言って、私と生徒を自分の部屋から追い出したイアン先生。
無情にもしめられた部屋の扉を呆然としていた。
確かに、イアン先生が自分の研究をするためにオケアノス学院で働いているのは知っていた。
だけど、生徒がこんなに困っているのに、放課後に少しの時間でいいのに。それも駄目なの?
自分が初めて受け持ったクラスの生徒がこんなに困っているのに。
そう思うと、私は放っておくことができなかった。
イアン先生がしないのであれば、私が補習をする。
そんな私の行為がよほど気に入らなかったのか、または、自分の担当する生徒を違う学年の担当の私が教えていたことで何かを言われたのか。
その補習以降、イアン先生が何かと私の行動に口を挟むことが増えたと思う。
「特に彼はどこの誰ともわからないというのに、少々浅はかではないのですか?」
私が過去を振り返っている間、ぐちぐちと言っていたイアン先生の言葉を右から左に聞き流していたが。
その一言は、とても聞き流せるものではなかった。
「子供と言っても、彼は……」
「ケースケ君はとても良い子ですよ」
気づけば、イアン先生の言葉を遮って、半ば叫ぶように吐き出していた。
職員室に残っていた教員の視線が集まるが、私の口は止まらなかった。
「礼儀正しくて、優しくて、よく気がつきます。常識がないところもあるかもしれませんが、それは知らなかったからです。勉強も熱心です」
「……」
「突然、転移の魔法陣の誤作動で呼び出されたというのに、泣き言も言わずに前に進もうとしているとても強い子です」
睨み付けるように言い切った。
しばらくお互いに睨み合いを続けていたが、小さくイアン先生の瞳が揺れると、眉間に皺を寄せた。
スッと視線を外したイアン先生は、そのまま何も言わずに職員室から出ていった。
私は無意識に詰めていた息を吐き出すと、どこか胸がすっきりとしていた。
あの日、相談に来た生徒と補習のお願いをしにいった日。
あの時は、何も言えなかったけど、今は言えたことが嬉しかった。
補習が終わってからも、ケースケは度々私のところに質問にくるようになった。
貸していた本を返しに来た時は、可愛い袋に入った甘い焼き菓子を添えられていたことに、思わず笑ってしまった。
とても、気遣いのできる子だと、嬉しくなって、自然と笑みが浮かんでいた。
「来週、試験なんですね」
ある日、ケースケにそう言われた時は、思わず、あ、と声を漏らしてしまった。
またやってしまった、と酷く落ち込んでしまったのだが。
私のあまりの落ち込み様に、慌てて慰めてくれるケースケに、これではどちらが年上かわからなくなって、また落ち込んだり。
ケースケは私の担当分の試験範囲を聞きに来ていた。
その時初めて、授業で試験範囲を言っていないことも、試験問題がまだ作成できていなかったことも思い出して、深いため息が出た。
流石にケースケにそれは言わなかったけど。
魔法学と数学、語学を担当している私は、試験問題もその担当分作らないといけない。
その日から夜遅くまで作業をして、なんとか試験日までに完成させた私は、無事に試験を行うことができた。
「ここからが、本当の正念場よね」
誰もいない教員寮の自室で、目の前に積み上げられた紙の束を薄目で見ながら、言葉が漏れていた。
私が担当している四年の数は、約八十人。
更に三つの教科を担当しているので、目の前に積んである紙の数はざっと二百四十枚といったところだ。
その全てを一週間で採点を終わらせなければいけない。
まぁ、最高で六つの教科を担当している先生もいるし、初等学四年なのでまだそれほど試験問題数も多くないのでましなほうなのだが。
つい、先週に全力で試験問題を作成して、今週に採点をするという状態では、自然とため息が出た。
気合を入れるため、最近お気に入りになった紅茶を入れに行くのだった。
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