第17話 異世界初旅。
図書室での調査の結果、いくつか属性の要素が高いと思われる地を見つけることができた。
あまり遠出はできないので、ノシルフィ大陸の地に限定されるが。
火属性のメウテスロ、水属性のパリアカ、風属性のエカトルタ、地属性のキシャルナ。
メウテスロはオケアノス学院のあるアニュキスの南に位置する、人口が五千人程度の村で近くにパイストス山という火山が存在する。
メウテスロから西に進むとシンフォアとの境の海沿いの街、パリアカ。海が近いこともあるが、パリアカには入江がある。
アニュキスを北上した先にあるのがエカトルタという砂漠に囲まれた国だ。エカトルタのある砂漠では、何に何度も竜巻が発生する。
最後にオケアノス学院のすぐ東にあるキシャルナの森。古くよりある森で、森の奥には樹齢何千年とも何万年とも呼ばれる大木が生えている。
旅の計画を建てる時に、あまりにも距離があったため二回に別けるかどうかという話になった。
だが、ファンのキシャで移動すれば、調査に二日を要したとしても、移動と含めて二十日。何とか一ヶ月いないに帰ってこれるだろう、という話になった。
エレイ先生に旅の計画と共に、一回で一ヶ月のものと二回で三十五日の文を提出したが、彼女からもキシャを借りるのであれば一度で長期契約した方が安いと勧められた。
俺は、こちらにも汽車があるのだと思っていたので、個人で借りれて色々なところにいける異世界の汽車はすごいなと思っていたのだが。
「カメかぁ……」
「ケースケさん、生物名を知っていたんですね。長距離移動にはこれが最適なんですよ」
言いながら荷物を運んでいるネモアは、岩のように大きく硬い甲羅に固定された荷台へと登っていく。
周りでは同じように甲羅に荷台を固定されたカメが休んでいたり、食事をしていたり、走っていたりする。
もう一度言う、走っているのだ。
時速で言うと三、四十キロぐらいは出ているだろう。
甲羅に固定された荷台は六人乗りで、カメの首がでている部分に御者台? 運転席? が取り付けられていて、ロープがカメの口の両端から伸びている。
小型バス大の体格を除けば、カメだ。
この世界の乗り物の一つで、馬車と人気を二分する亀車(キシャ)と呼ばれるらしい。
十人未満の長距離移動にはもってこいの乗り物らしい。
食べ物は雑食で、移動中は一定の時間にご飯を与える必要があり、ご飯抜きにすると勝手に道を外れることもあるらしい。
村や街などでは、よほど人がいない場所以外ではキシャを預かる拠点があるらしい。レンタカーのような物のようだ。
拠点ではキシャの点検や整備、休んでいる間の世話をしてくれるとのこと。
長期契約の場合は拠点での整備や世話代が格安になり、今回のように一ヶ月以上であれば長期契約として契約が可能とのこと。
確かにお得である。
計画の二回の場合は二十日と十五日だったので、長期契約には少し足りなかったらしい。
「でも、キシャなんて、誰が運転するんだ」
「俺とネモアだぜ。俺、これでもキシャの操縦は得意なんだよな」
「道を間違えないでくださいね」
ウィズが自慢げに体をそらすと、ファンが溜息をつきながら呟いた。
ファンとネモアはとある試験休みに、ウィズの誘いで遠出をすることになり、今回と同様、キシャで移動する機会があったらしい。
当時、ネモアはまだキシャの操縦ができず、ウィズに任せていたが、気が付いた時には、どこですかここ? という状態になったようだ。
ウィズが地図を見ながら進んでいたはずだったが、実は地図の読み方がいまいち理解できていなかった。
一度行ったことがある場所だからと、その後も感を頼りに進み、ファン達が外の違和感に気づいた時には道を大きく外れていた。
その後は交代でウィズをナビゲートしながら何とか目的地にたどり着いたが。道を大きく外れたせいで、余裕を持って詰めてあった食料は全てなくなってしまっていて、結構危ない状況だったらしい。
ネモアはこの一件の後、キシャの操縦資格を取得した。
そんなことがあったのにあっけらかんとしているウィズと、疲れた表情のネモアとファンの姿が印象的だった。
まずは、火属性のメウテスロを目指して、ネモアの操縦でキシャが動き出した。
メウテスロは鉱物の採掘者が集まる小さな村だ。
パイストス山の山腹より少し下の広く開けた場所に、採掘者が寝泊まりするための小屋を建てたことが始まりで、その後、人が増えて村が作られたとのこと。
パイストス山が活火山であることと、村への道があまり整備されていないこともあり、一般の人はあまり足を運ばない。
採掘者の家族が住んでいたり、商人が直接買い付けにくる程度だ。
逆に、メウテスロよりさらに下がり、パイストス山の入り口ともいわれる場所にあるのが、ヴァカンフと呼ばれる大きな街だ。
ヴァカンフは観光地として有名で、街のおすすめスポットから見るパイストス山は四季によって見えかたが変わり、年中環境描くの数が衰えない。
また、温泉が湧き出しているので、冬に近づくほど、温泉街は人で溢れかえる。
キシャでメウテスロに向かう俺たちだが、まずはヴァカンフを目指すことになる。
メウテスロにキシャを預ける拠点がないことと、キシャは整備されていない山道を進むことができないらしい。
ヴァカンフからメウテスロまでは馬か馬車で移動するか、徒歩で登ることになる。
調べたところ、乗合馬車が定期的に出ているようで、メウテスロへ行くのには一時間もかからないとあったため、ヴァカンフで宿を取り、最低限の荷物だけを持ってメウテスロで調査することになっている。
そもそも、今回の旅の荷物もできるだけ最低限必要な物だけを持ってきている。
俺は、自分で荷物をまとめようとして、ネモアにほとんど却下された。
一ヶ月近くも旅をするんだから、何があっても困らないようにと、スコップとか小道具とか食材とか……。寮の部屋にある物すべてを持っていく勢いだった。
実は俺、海外旅行ってしたことなくて。初、海外が異世界ってのもどうなんだって話だが。
なんにせよ、物が詰め込まれて膨れ上がったカバンを四つも並べたところで、ネモアの溜息が聞こえてきたのだ。
「俺がやります。ケースケさんは、調査に必要な道具だけ揃えてください」
そう行って、部屋から追い出された。
仕方がないので、図書室から必要そうな本を借りてきたのだけど、それも却下。
本はかさばるし重い。必要なら、その項目だけ何かに写す。そもそも、学院の図書は外部持ち出し厳禁。だ、そうだ。
言われてから改めて考えると、調査中は本なんて読んでいる暇はないし、調査中に気になったことはまとめて帰ってきてから調べればいい。と気づいた。
つまりは、調査結果を記入するものと、今現在不明確な部分が書かれたリストがあればいいのだとやっと理解した。
ネモアが用意し直してくれた荷物は背負うタイプの大きめのカバン。よく、登山家とかが持っているようなやつ一つに収まっていた。
中身は、厚手の毛布一枚と着回しできる程度の服、薄手のタオル数枚、非常食、携帯応急セットなどなど。
背負うと腰の下まである大きさのカバンだが、三分の二しか入っておらず、それもきちんと袋などで小分けされている。
残りの三分の一の部分に俺の用意した、紙やペンなどを入れてもまだ余裕がある。
思わず小物を入れようとして、行く先で荷物が増える可能性があるので、余裕を持たせておいてくださいね。と、ネモアにいい笑顔で注意された。
旅の準備でそういったことがあったわけだが。
アニュキスを出て半日。昼前に出たので、今はすっかり夜だ。
道を少し外れたところの森の入り口で火を起こし、ご飯を作っている。
今回の旅のメンバーは俺、ネモア、ウィズ、ファン、ミリィの五人。
今更になってしまうが、男の中に女の子一人の旅ってどうなのだろう。
慣れた手つきで料理するネモアとそれを手伝うミリィ。若干、立場が逆のように見えないでもない。
ミリィも自分が女の子だからと気にしている様子はなく、逆に夜の見張りはウィズかミリィのどちらかと組むことになっている。
野生の動物とか下手をしたら盗賊とか出てくるらしい。
修学旅行とかと同じように考えて、年甲斐なくはしゃいでいた俺を殴り飛ばしたい気分だ。
初日ということもあって、旅慣れない俺はキシャの荷台で寝ることになったんだが。
風で揺れる森の木々のざわめきや、かすかに聞こえる遠吠えなどにびくびくしてしまい、中々寝付けない夜を過ごした。
枕が変わると眠れない体質とかではなかったはずなんだが。
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