第8話 魔力切れと補習。

 魔力切れを起こしてしまった次の日、俺は授業を休むことになった。


 寮に運び込まれた後、保健医に一通りの体の異常を確認してもらい、数日休んで魔力が回復するかどうかの経過をみてみないとわからないとのことだった。

 自分でまっすぐに歩くことはできないにしても、立ったり座ったりと言った動作はできるまでに回復していたので、病院に入院するほどではなく様子見だそうだ。


 ネモアも休んで看病をすると言ってくれてはいたが、代わりに授業を聞いて後で説明してくれるようにお願いすることでなんとか納得してくれた。

 ベッドから届く位置に置かれた水差しと、お腹が空いた時にいつでも食べられるように用意された果物類。

 重たく感じる体をベッドの背にもたれかけながら、水を飲む。

 昨日に比べると幾分か動くのが楽になってきたようだが、壁を支えにしないと一人で歩くことができない。

 熱や喉の痛みなどはないが、風邪のひどい症状に似ている。

 最悪の事態に陥っていなかったことをただ喜び、十分な休息をとって回復に務めるしかない。


 改めて思ったことだが、この世界の魔法は今まで俺の中にあった魔法の幻想をどんどんと崩していく。

 呪文を唱えて簡単に発動するわけではないし、下手をすると後遺症になりかねない。

 今までは魔法というものと無縁だった俺が、魔法が使えるようになって少しはしゃぎすぎた結果ではあるが、魔法とは何かを理解しないと本当に命の危機になってもおかしくない。

 ネモアが魔力切れを起こしたら体に異変が起きることを知っていたということは、こちらの常識的なものなのだろう。ネモアが勤勉だということかもしれないが。

 どちらにせよ、使う方を色々と調べる前に、使うための方法を調べないといけない。


「ケースケさん、お昼用意しました」

「あ、ああ。ありがとう」


 考えに没頭してしまっていたため、ネモアが部屋に帰ってきていたことに気づかなかった。

 お盆には野菜と肉をドロドロに溶けるまで煮込んだスープのようなものが載せてあった。こちらでいうお粥のようなものみたいだ。

 病気ではないので普通の食事でも良いと思っていたのだが、保健医のすすめらしい。

 味付けはほとんどされていないが、様々な野菜と数種類の肉が煮込まれているためか、栄養はとても高いらしい。


「こちらが、午前中のノートです」

「ありがとう」

「俺は午後も出ますけど、少し動けるようになったからと言って無理はしないでくださいね」

「わかった。助かるよ」


 パラパラと受け取ったノートを確認すると、とても綺麗にまとめられていた。

 先生の話もメモとして取られているし、たまに書き方の違う文字がいくつかあった。

 多分、ファン達だろう。

 お礼を言わないといけないな、と思いながら、ネモアに言われあ通り、今日は一日中寝ていることにした。

 ノックの音で目が覚める。

 窓の外を見ると、日が傾きはじめていた。


「ケースケ君、調子はどう?」


 そう言いながら入ってきたのはエレイ先生だった。

 手には果物の入った籠を持っていて、世界は違うのにお見舞いの品は似ているのだな、と一瞬凝視してしまっていた。

 大分、動けるようになった体を起こすと、途中でエレイ先生が手を添えてくれる。


「ありがとうございます」

「いえいえ、それより私、謝らないといけないの」


 そういうとエレイ先生は暗い顔で俯いた。

 言いづらいことなのか、手を前で組むと指をせわしなく動かし、目はちらちらとこちらを伺うようになんども向けられる。

 お茶を入れに言っていたネモアが部屋に帰ってきても、何も言い出せないエレイ先生。


「……あの、謝るって何をですか?」


 だんだんと待っているのも疲れてきたので、声をかけるとびくっと跳ね上がる肩。

 何かわからないが、とてもまずいことなのだろう。

 聞きたくないような気持ちが強くなるが、このタイミングで謝るということは、今回の魔力切れに関することなのだろう。

 エレイ先生は俺の担任で、授業は語学と数学と、魔法の基礎--。


「ごめんなさいっ! 私が、しっかりと教えていればこんなことにはならなかったのに!」


 この世界にきてからよくみている気がする。

 床に土下座するエレイ先生。

 建前上、年上で先生に土下座をされているというこの状況は、すごく居心地が悪いわけで。

 隣でネモアもどうして良いのかわからず、困惑している。


「……エレイ先生、一先ず落ち着いてください。話をしましょう」


 優しく言ったつもりだったが、中々顔をあげてもらえなかった。

 ごめんなさいを繰り返し、私が、私の所為で、教師失格、などの言葉を不安定な音程で呟く姿は呪いでもかけられているのではないかと思う。

 とにかく不気味だ。

 ネモアも俺と同じように感じているのか、なんとか話をしようと慰めながらお茶を出したりしている。

 流石に俺はまだベッドから降りられないので、言葉で慰める。


 その攻防は体感では一時間ぐらいだったが、実際は三十分も経っていなかったのが不思議だ。

 なんとか顔をあげたエレイ先生は目に涙をいっぱいためていて、ただ大人としてのプライドなのか、それをなんとかこぼさないように頑張っていた。

 鼻の頭が赤くなっているので、土下座をしている間は泣いていたのかもしれない。


「ごめんなさい。感情的になってしまって……」

「いえ、大丈夫です。あの、それで、今回の魔力切れのことをエレイ先生は謝っているのですよね? でも、これは俺の自業自得というものではないかと思っているのですが」

「自業自得と言ってしまえばそうかもしれないけど、ケースケ君は魔法を知らなかったのよ。私は理事長から常識の面も注意してほしいと言われていたのに、それを真剣に考えられていなかった」


 真剣に考えられていなかった。

 俺が編入生で、授業にも問題なくついてこれて、教科によっては成績優秀と呼べるだろう。

 普段の生活でもとりわけ非常識なことをしているわけでもなく、礼儀作法も申し分ない。

 だから忘れてしまっていただと。

 問題ないと思ってしまっていたのだと。


「ケースケ君は魔法を知らなかったのに。私はそれを知っていたのに、本当にごめんなさい」


 土下座ではないが深く頭を下げるエレイ先生。

 確かにエレイ先生の言っている通りかもしれない。

 だけど、魔法が使えることに浮かれていたのは俺で、魔力を消費するたびに疲れを感じていたのに追求しなかった。

 ゲームや小説などと同じように感じていた自分。


「エレイ先生。魔法の基礎や常識を教えてください」


 エレイ先生の目をしっかりと見つめた。

 一瞬たじろいだ彼女だったが、力強く頷き返してくれていた。


 魔力切れを起こしたのが月曜日、それから丸三日、ベッドの住人となった。

 やっと保健医の許可も下りて、今日から授業を受けられるようになったのだが、体を動かす実技は見学で少し無理をすると貧血のようになる。

 無理をしないようにと言われているのと、それを確実に遂行しようとしているネモアがいるおかげでなんとか授業に参加できている。


「ケースケ、魔力切れで休んでいたのよね? 大丈夫なの?」

「なんとか……。あ、授業のノート一緒に取ってくれたんだよな。ありがとう」

「困った時はお互い様ですから。無理しないでくださいね」

「そうだぞ、ケースケはただでさえ細いんだからな」


 剣術の授業などがあるため、高校時代より運動量が増えているため、多少は筋肉も持久力もついてきたが。

 ウィズのいう通りこちらの人たちに比べるとまだまだ細い。

 ウィズと比べると丸太と棒で、文系のファンと比べても一回りは細い。

 ウィズは獣人だから元々の骨格の違いなどもあるだろうが、もう少し体力をつけないと今後の授業についていけるかが心配だ。


 放課後、エレイ先生の元で早速常識について学ぶこととなった。

 まず広げられたのはこの世界に初めてきた時にみた地図だ。

 ただし大きさは壁一面を覆うほどで、天井からぶら下げている。


 常識の大半は入学して一、二年で学習することになっている。

 大陸、種族、礼儀作法、魔法。

 編入生として入ってくる生徒は、ある程度この辺りを自分で学んでからやってくる。


 普通は編入試験にそう言った一般常識のテストが含まれているのだが、今回の俺の場合は特異な状況にあったため、環境を優先するために一般常識の試験が免除されるという理事長の好意があったためだ。

 そのため、エレイ先生には気をつけるようにという指示があったのだが、何せ初めてのことと、彼女が不慣れなことも重なったのがそもそもの原因だ。


「では、まずエルコティアソフィアについて話していきます」


 エルコティアソフィアの大陸はその昔、一つの大陸だった。

 あるとき天から一筋の雷鳴が轟き、大地は二つに割れた。今でいう、ノシルフィとアポテメタン、シンフォアとイエルザの元となった大陸。

 その頃の大陸には名前はついていなかったが、今はノシルフィ側がロア大陸、シンフォア側がムア大陸と呼ばれている。


 これは空に浮かぶロアとムアからなぞられたもので、太陽がロア大陸から登り、ムア大陸へと沈みゆくからだ。

 大陸が二つに割れたことにより海流が生まれ気候が変わった。そして、ロア大陸は大津波によって、ムア大陸は大規模な地割れによって、今のノシルフィ、シンフォア、イエルザ、アポテメタンの四大陸に分かれた。

 さらに割れた海流は、それぞれの大陸を全く違う個の大陸へと成長をさせていく。

 いつしか生き物は自然に順応し、人、亜人、魔人という種へと異なる進化を遂げる。

 異なる種は異なる能力を持ち、互いを尊重し合うことで、エルコティアソフィアは繁栄していくのである。


 エルコティアソフィアの歴史、と書かれた本をエレイ先生が閉じる。

 幼い子供用にまとめられた本なのか、挿絵なども結構あり、絵本と言った印象が強い。

 わかりやすくきれいにまとめられた話、だと思った。


 エルコティアソフィアでの魔法の起源は意外と浅い。

 魔道具などが一般的に普及してきたのは八十年前のことで、オケアノス学院が設立されたのがその十年前だ。つまりは、オケアノス学院が設立されてから百年も経っていないということになる。

 魔法技師と呼ばれる魔法陣の開発を専門とする職業もこの前後から一般に認知されるようになった。


 この原因の一つとして、魔法使いと弟子という関係でしか魔法が受け継がれてこなかった歴史がある。大衆の前で魔法が使用されることも稀であったのだ。

 魔法という技術が世間に認知されることとなったのは、ある国の王の発言だった。


 アニュキス国の第十四代カフォス王、オケアノス学院の創設者である。

 カフォス王は大変勤勉な王で、幼い頃より様々な師の教えを学び、魔法という技術があることを知ると魔法使いに弟子入りした。

 そこでカフォス王は知る。

 木も火種もなくても火を起こせる術、川が無くても水を出せる術。


 カフォス王は勤勉でそしてとても国民を思う王だった。

 魔法という技術が一般的に使用できるようになれば、国民は今よりもっと過ごしやすい生活を送ることができるのではないかと。魔法を広める決意をする。

 それと共に、今までは一部の人しか学ぶことができなかった学問を学ぶ機会を与え、知識を広めようと考えた。

 カフォス王は知っていた、王になり、よりよい国を作るためには知識が必要だと。知識は国のためになると。


 側近で幼馴染でもあったヒュペリオンと、各大臣と幾度と会議を重ね、オケアノス学院を設立し国家魔法士という地位を新たに作った。

 オケアノス学院の初代理事長にはヒュペリオンが就き、各国の優秀な人材を教師として雇い、彼自身も教育者として魔法を教えていた。


 ヒュペリオンはオケアノス学院の理事長であり、魔法使いであり、教育者であり、魔法技師でもあった。

 彼は魔法についての数々の本をのちに執筆する。

 代表的なものとして『魔法の基礎』『世界の魔法陣』『魔力について』などがあげられる。

 ヒュペリオンの執筆した本は、オケアノス学院で魔法の基礎を学習するための学術書として今でも使用されている。


 特に『魔力について』は彼の研究の中でもっとも力を注いでいた部分で、内容のほとんどは仮説でしかなく、彼自身の考えが書かれた一種の日記のようなものでもあった。様々な視点から魔力を考察した結果だ。


 魔法とは?


 そう初めに疑問を抱き、解明しようと研究し続けたのは彼が最初だろう。

 いまだに『魔力について』で述べられている仮説の全てを証明することも、明らかに否定することも、現在の魔法使いの中にできている者はいないが、そのいくつかは証明され、また残りのいくつかは否定された。


 放課後の補習で「魔力とはなんですか?」と聞いた俺に、エレイ先生が教えてくれた話だ。

 決して無理をしないようにという言葉と共に渡されたのは、ヒュペリオン著の『魔法の基礎』『世界の魔法陣』『魔力について』の三冊。

 無理をしないためのネモアの監視のもと、受け取った本を順番に読み進めていく。


 『魔法の基礎』は補習の時に聞いた内容と変わるところがあまりなく『世界の魔法陣』には様々な魔法陣が効果と共に書かれている。

 『世界の魔法陣』は前にネモアに見せてもらったことがあるが、渡されたのはヒュペリオン著の初版のもので、最新版は追加や表現の加筆、削除が行われた物だという。

 個人的に一番気になっていたのは『魔力について』だったが、エレイ先生の進めで先の順番で読むことにした。

 基礎と世界の魔法陣に書かれたヒュペリオンの知識が表現が『魔力について』では、説明もなしに出てくるからだそうだ。


 魔力とは自然エネルギーと体内エネルギーを混ぜ合わせた状態のことをいう。

 では自然エネルギーと体内エネルギーとはどういうものなのか。


 冒頭に書かれた一文は俺が疑問に思っているものだった。


 この世界には精霊と聖獣と呼ばれる自然の流れを感じ、自らの栄養として使用できる存在がある。

 彼らは自然と共に生き、自然と共に暮らしているため、風景と同化してしまうほど自然に近い存在だ。

 また、精霊と同じく自然の流れを感じ、自らの栄養とする魔物や魔獣といった存在がある。

 精霊と魔物といった彼らの明確な違いはない、人や家畜を襲うものが魔物、それ以外が精霊という人の定めたなんとも曖昧で勝手なものだ。


 言わば、精霊だとしても人を襲えば魔物と呼べるだろうし、魔物でも人を助けることがあるかもしれない。

 現にある地方では精霊と呼ばれている存在が、別の地方では魔物と呼ばれているという事実は少なくない。

 そして彼らはどちらとも自然エネルギーの扱いに長けている。


 体内での魔力を生成する構造ができているのか、魔法陣を使用せずに魔法を使用することができるものが多い。

 つまりは彼らの生態を調べれば、魔力というものに近づけるのだと思う。

 ただ彼らは特殊で、死ぬという状態がない。彼らは世界でその個の存在を維持できなくなると、消えてしまうのだ。

 消えるといっても、消滅しているのか、何かに吸収されているのか、それを確認する方法はまだない。


 もし何か、自然エネルギーとして消滅と共にエネルギーになっているのだとすれば、彼らそのものが自然エネルギーということになる。

 そうなると魔力は自然エネルギーだけで構成され、それを使うと魔法は彼らのように魔法陣なしで使用できるということになるだろう。


 『魔力について』には、こういった仮説がいくつも書かれている。

 中にはヒュペリオン自身が仮説を証明したものと、否定したもの、また、ヒュペリオンの死後、彼の弟子や彼の仮説に興味を持った者たちが証明、否定したものが追記されている。

 何年かごとに改訂が行われていて、本の裏に年月とナンバーが書かれている。

 周期は不定期で、ここ三年は更新されていないか、エレイ先生から借りた本が古い物かのどちらかだろう。

 最高峰の学び舎と呼ばれているぐらいだから、こういった資料は新しい物だと思うが。


「精霊と魔物ね、ネモアは会ったことある? 精霊や魔物」

「師匠に連れられて何度か。魔物は危険が多いので、精霊がほとんどでした」

「やっぱり、違いとかってあるのか?」

「俺はちょっと疎いのか、違いはあまり……。精霊だと言われても、恐怖感は消えませんでした」


 苦笑いをしながら少し恥ずかしそうに答えるネモア。

 精霊とか魔物とかって聞くと、見た目を全く違うものを想像してしまう。人型とか獣型とか。


「精霊とか魔物ってどういった形なんだ?」

「俺が見たのは犬とか馬とかに近いものと、個体を持たない不安定な物体でした」

「不安定?」

「はっきりと存在を視覚できるというよりは、そこにぼんやりと何かが存在するといった形といいますか……」


 何かある、って、幽霊じゃあるまいし。

 精霊や魔物について気になった俺は、ネモアとファンと共に図書室に来ていた。

 ネモアは俺が無理をしないための監視が目的で、ファンには参考となる資料を一緒に探してもらっている。

 ファンにもネモアと同じように精霊や魔物に会ったことがあるが聞いてみたが。


「会ったことはないですね。精霊も魔物も普段は人里にくることはないので、普通に生活している人は会わないですね」


 ヒュペリオンと同じく、精霊や魔物を研究している人や、人を襲ってきた魔物の退治といったことでもない限り一生会わずに過ごすことも少なくないという。

 ファンも一時は精霊や魔物関連の資料を読んでいたことはあるらしいが、その危険度から会いにいこうとは思わなかったらしい。


 図書室には精霊や魔物関連の本が多く保管されていた。

 ただ、図鑑のようなものや生態や属性別に分けられた資料のようなものがあると思っていたが、実際はスケッチブックに走り書きされたようなものだった。

 ひたすら絵が描かれていて、稀に説明書きがされているものがある。

 詳しい生態は解明されておらず、これらの資料に関しても、見つけたものから絵にしてまとめられているといった感じだ。

 写真という物はないみたいで、様々な人が描いた絵がまとめられていて、精度も様々だ。


「獣系が多いのか……」

「形をなしているのは、そうですね。形のないものは中々表現できないですし」

「あー、なるほどな。形のない方の資料とかは?」

「これが一番わかりやすいかと」


 渡されたのは分厚い本。

 中を見ると今までの資料とは違い、ページが黒くなるぐらいに細かい文字が書き込まれている。

 各ページの書き出しには日付と天気、気候などが書かれていて、その内容は日記といった感じだろうか。

 観察記録というには、別の情報が多い。


「テイアの旅行記?」

「はい。旅の途中で出会った精霊や魔物のことが書かれています。全体の半分以下ではあるんですが、観察力と表現力が良く、僕としてはとても読みやすかったですよ」

「へぇ」


 分厚い本は、最初の日付が今から十年前、最後の日付がその二年後になっていた。

 何日か日付が飛んでいることもあるので、書かなかったのか、必要なところだけ本にしたのかのどちらかだろう。


 日記といえば、日本語を忘れないために書き始めたものが、すでにノートの半分になっている。

 前までなら三日坊主で終わるところだが、これほど続いたのは初めてだ。

 夜になると習慣的にノートを開いている。

 忘れてしまうという恐怖感が、刷り込みのように行動に移させているのか。


 一度、日本語で読み返している姿をネモアがみていたことがあって、とても心配された。

 意味の不明な音を途切れることなく紡ぐ俺が、何かに取り憑かれたのかと思ったらしい。こちらの言葉が俺にはただの音に聞こえるのだから、そう思われても不思議ではない。

 故郷の言葉だと説明すると、申し訳なさそうに謝られた。

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