「コウー仕事だよー」

まぶたを上げる。視界いっぱいにアマネの顔があった。

「…ちかい」

「起きた起きた。おはよー」

「おはよう」

起き上がる。辺りは暗い。ベッド横に立つアマネの腰にはビンとメガホンが二つぶら下がっている。ガラスの向こうで赤い瞳がこちらを見ていた。

「二日連続か…」

「連続どころじゃないよー。ヒュプノスは日々増えてンだから、休む暇ないって」

「そうか…」

のそのそと立ち上がる。

「おお、やる気まんまんだ」

「だって、人助けなんだろ?」

「そうだけど…もっと疑うかなって思ってた」

「そんなん、昨日さんざんおかしな目に遭ったし…」

日中、俺はヒュプノス症候群について情報を集めた。もともと知っていたことに加え、アマネに教えられたオネイロスのこと、介入者の存在について裏を取ることができた。しかし、わからないことはある。俺が介入者になった経緯だ。アマネが言っていた第三者夢想可視化装置や介入装置を開発したヒュプノス症候群の対策を専門にしている存在があり、おそらくアマネはその人物から派遣された人間だ。ニュクスの対処も知っていたことから、その人物とアマネに関わりがあるのは間違いないだろう。しかし、俺はそのような人に接したことはない。おろか、ヒュプノス症候群についても聞いたことがある程度だった人間だ。

「まぁいいや。今日はさ、おれ手を出さないから、コウがやってね」

質問をしようとしている俺を差し置いて、アマネは言った。

「…俺一人で?」

昨日の一件で俺は手も出せなかった。それなのに、俺一人に任せようと言うのか。

「うん。ギョロちゃんだけ貸したげるよ」

「ソのミョウなアダナやめロ」

ビンのなかで目玉がアマネを睨み付けている。粘液のせいでガラス面がくもってしまっている。

「コイツをまず投げるんだよな?」

「そう。外側の硬い殻を破る。まぁギョロちゃんがいなくても出来るんだけどね」

「いなかったらどうするんだ?」

「最初の殻も言葉ではがす。ただ、最初は本当に話聞いてくれないから、ギョロちゃんの力は偉大だよー」

家から出る。昨日とは明らかに違う町並みだ。マンションが鱗次櫛比と並び、ガラス張りのビル群が遠くに見える。

「都会だ」

「コウが住んでたとこだってそうだろ?」

「ここまでじゃない」

甲高い音が背後からする。音は少しずつ大きくなってきているようだ。

「来たね。あ、これ」

アマネが手渡したのは目玉の入ったビンと、青いメガホンだ。

「じゃ、がんばってねー」

「あ、おい」

俺が引き留めるのも聞かず、アマネは駆けていった。

「ちくしょー。まだ聞きたいことあったのに」

「ナンだ?」

答えたのは目玉だった。

「ああ…」

目玉を顔の高さまで持ち上げる。赤い瞳と目があった。何度見てもグロテスクだ。

「…お前はなんで人じゃないんだ?」

「あア?」

「だって、俺もアマネも人の姿をしてるのに、お前だけ目玉じゃないか」

「ヒトじゃナイからじゃナイか」

「おい、真面目に答えろよ」

強く言う。しかし、目玉が動じる気配はない。

「シラネェよ。オレはキヅイたらあまねのソバにイた」

「え?」

甲高い音が大きくなった。俺は音がする方に向き直る。

「ツヅキはアトでナ」

「ああ…。まっすぐこっちに来ているわけではないみたいだな」

音はこちらに向かってきてはいるものの、少し左右にそれている。

「あア。コンカイのはトンデるワケではナイんだロ。オレたちとオナジようにミチをヨケてるんダ」

それなら好都合だ。ビンはポケットに突っ込み、メガホンを置いた。辺りにある小石を集める。

「あ、あれ?文字がないぞ?」

「まだヨロイがトケてナイからナ」

「くそ、そうだったな」

甲高い音が近づいてくる。それは笛の音のようだった。

振り替えると、掃除用ロッカーに車輪を着けたようなものが立ちはだかっていた。俺の背丈をゆうに越えている。笛の音が響く。俺はビンを取り出し、ロッカーに投げた。ビンはロッカーに触れる直前、大きな赤い布に姿を変え、ロッカーにまとわりついた。しかしそれは一瞬の出来事で、ロッカーに触れたとたんにビンに戻ると、こちらに跳ね返ってきた。

「あああああああああ」

ロッカーから叫び声がする。前回同様複数人の声が重なりあったような声だが、今回のは確実に男の声だろう。

ビンを受け取り、メガホンをもって走る。

今の目玉がやってのけたような変身などできない。おそらくアマネも。そう考えると、

「お前は確かに人ではなさそうだな」

「ソのハナシはアトってイッたロ。…あまねにキイてもムダだゾ。あいつもシラナイからナ」

「はぁ?ほんとにどういうことだよ」

ピィーーっと甲高い音が迫ってくる。出来るだけまっすぐ走らないように、右に左に曲がる。

「さっきイッタとおりダ。オレはキヅイたらあまねのソバにイた」

「気付いたらって…その前の記憶は?」

「ナイ」

「アマネを介入させている人物が作ったお助けシステムとか?」

「チガう。あまねはオレのコトをマッタくシラナかった」

「はぁ…わかんないことばかりだな」

「サキにアイツをタオすコトをカンガエろ」

角を曲がると、目の前に少年がいた。紺の制服に身を包み、白い笛を咥えている。先程のロッカーの中身だ。

「おおう…」

小石の情報を全く集めていない。空を見上げる。やはり写真だけでは難しいか…。

どうする…まだ奴に何を言えばいいのかわからない。少年を見据えながらじりじりと後退する。

「あまねはテをカサねぇゾ」

「わかってる」

目が泳ぐ。俺が逃げるスピードよりも速く少年が迫ってくる。

情報を、情報を、情報を。

右頬の温度が一気に上がった。直後に痛みが走る。目の前の少年はいなくなっていた。スウェットにポタリと滴が落ちる。血だ。

頬に触れる。ぬるりとした感触。切り傷が三本出来ている。

振り返ると、少年がこちらを見ていた。

空を見上げる。情報が、ないと。

人がぎゅうぎゅうに押し込められた場所で、背後の人間に全身を預けた女性。

若い店員をどなりつける老人。

満面の笑顔を浮かべる少女。

横並びに赤信号を渡る青年たち。

イヤホンを耳に挿し、スマートフォンをみながら自転車に乗る女子高生。

なんだ?なにを意味してる?わからない。少女の写真を除いて、あまり気分のよくない光景が多い。どうしてそんな写真ばかりある?

いや、視点を変えよう。ここにこうして写真があるということは、彼が見た景色だからだ。見た景色とはつまり、その感情がどうであれ、見ざるを得ない、意識してしまうからだ。

なぜそんなものばかり見てるんだ?

少年が前傾の姿勢になった。

「クるゾ」

まだ考えがまとまっていない。とっさにメガホンを口許によせる。なにか、なにか言わないと。

少年の動きがスローモーションに見える。いや、少年だけじゃない。この世界すべてが俺に時間を合わせている。

俺は生きたいのか?救いたいのか?

息が吸えない。酸素が足りない。頭は真っ白だ。思い通りにいかない空間で、腹のそこに残った声を絞り出した。

「やめろぉおおおおおおおおお」

叫ぶと、少年の動きが止まった。目をしばたかせて俺を見ている。

「…このメガホン、相手を拘束する機能とかあるのか?」

「ナイ」

少年は眉を寄せて目を泳がせている。

もしかして。

頭のなかで、小さなストーリーが出来上がった。そのまま言葉にのせる。

「お前は、間違ってないいいいい!」

少年の動きがピタリと止んだ。少し首をかしげて俺を見ている。いい流れかもしれない。続けて息をすう。

「でも!正解はない!!」

少年はこちらをじっと見ている。

「わかってるから悩んでるんだろ!?お前は!間違ってない!そんなことしてない!でも!正解はないんだ!だから、お前を窮屈だと思うやつもいるし、うっとおしく思うやつがいる!」

少年の服の色が薄くなっている。少年は自分の変化を気に留めることもなく、俺の話を待っている。

そうか。なんとなくわかってきた。こいつらは、俺たちのことを排斥したいわけじゃない。認めてほしいんだ。もっと見てほしいんだ。でも、怖いから、攻撃してしまうんだ。

弱くて、自分の弱さを知っているんだ。

「めんどうなことなんだ!みんな知ってるはずなのに、知らないふりをする!本当に知らないやつらの影に隠れる!そしてみんな忘れるんだ!でも!そいつらも間違ってない!みんながみんな悪いやつじゃないんだ!」

少年の笛が口から離れた。カツンと音をたててアスファルトに打ち付けられる。

「みんな弱いだけなんだ!」

笛は粉になり、風にのって消えた。

「お前だって強い訳じゃない!のうのうと生きてるやつら見てると苛々するよな!でも!そいつらもお前に思うんだ!なんでそうやって生きれるのかって!辛いよな!間違ってないのに、共感されない!」

少年の服がぼやけていく。ストライプのティーシャツにハーフパンツ。どこにでもいる男の子の格好になった。

「いつか報われるなんて思ってないよな!?間違ってないことをしてるだけだ!でも、お前に救われている人間が必ずいる」

少年がしゃがみこんだ。ぽろぽろと涙を流している。

「自分を誇れ!お前は!間違えない!」

少年が大声をあげて泣き出した。側にいこうと歩きだすと、アスファルトがガラガラ音を立てて崩れ始める。

「オワッたナ」

「え…」

視界がぐらぐらと揺れる。俯いた少年が顔を上げた。涙でぬれた頬がにっこり笑った。

俺は、彼を少しでも救えたのだろうか。

「やるじゃんコウー!」

マンションの二階のベランダに立ったアマネが言った。むかついたのでメガホンを投げる。アマネはそれを掴むと、ケラケラと笑った。

「オマエ、アイツのナヤみがワカッたのカ」

目玉が言う。

「いや…本当の意味での共感なんて、誰もできないだろ」

「ま、ソウだナ」

空が音を立てて落ちてくる。俺の体も深く深く落ちていく。

「こう、タノみがアる」

「なんだ」

「あまねをタスけてクれ」

そこで視界は闇におおわれた。


目を開けると、自分の部屋だった。

頬に触れる。やはり怪我はない。

カーテンを開けると、昨日と同じ天色がどこまでも広がっていた。部屋を出ると、リビングでは母親があわただしく出掛ける準備をしていた。

「あら、起きたの」

「うん。今日講義あるし」

「あ、そっか。母さん仕事あるから先行くねー。パンあるから食べていきな」

「あーい」

テーブルの上に置いてある惣菜パンを手に取る。俺の好きな味がある。

「…なんか、いいことでもあった?」

母は不思議そうに言った。

「え?…べつに」

「そーお?まぁいいや、いってきまーす」

「いってらー」

電気ケトルに水道水を注ぐ。いいこと、と言えば夜の出来事しかない。あのときのことを思い出すと、いまだに鼓動がはやくなる。

俺は、人を救えたんだ。

インスタントココアを入れたマグカップに湯を注ぐ。何度も食べたはずの惣菜パンが、いつもより美味しく感じる。いや、美味しい。


講義が終わり、帰路につく。家につく頃にはすっかり日は落ちていた。オレンジ色の明かりが点る玄関をくぐる。カレーの香りがした。

「おかえり」

「ただいま。…ねぇちゃんは?」

「彼氏んとこ」

「ふうん」

リュックを置いてテレビのリモコンを取る。いつか見たことのあるアニメが流れていた。好きだったはずなのに、結末が思い出せない。放送されているストーリーはなぜかピンポイントで覚えている話だ。

「…ねえ、こう」

「なに」

テレビから視線をずらす。母はまっすぐ俺を見据えていた。眉が下がっている。

「本当に、ごめんね」

「もう、なんだよ」

「これからは、あんたのしたいことしていいんだからね」

母はいつもこうだ。ふとしたときに俺に謝る。姉のために、俺がまるで、自分の人生を無駄にしてきたように言う。そんなことはない。姉のためにしてきたことはそうだが、姉を助けることで自分の利益もあったからそうしただけだ。決して母のせいじゃない。それなのに。

「…やめろって」

母にいい、自室に向かう。部屋着に着替え、夕飯を食べる。俺の好きなシーフードカレーだ。二回おかわりをし、風呂に入った。

課題を進め、日を跨いだ頃にベットに潜る。そういえば、連日寝ていないわりに眠気はない。

まどろみ始めると、聞きなれたあの声がした。

「コウー?」

アマネだ。

「…時間か」

「そうだよー」

ゆっくり起き上がる。枕元に立つアマネがじっと俺を見ていた。ちょっと怖い。

視線をずらすと、二つのメガホンが目に留まる。そこには、いつもはあるビンがなかった。

「…目玉は?」

「ギョロちゃん?今日はいないみたい」

「みたいって…」

適当な返事に呆れる。目玉が言っていたように、アマネは目玉についてすべて把握しているわけではなさそうだ。それが不可抗力か怠惰によるものかはわからないが。

昨日の言葉について言及したかったが、今日はやめておこう。言葉の意味を理解するためにも、今日は様子見をすることにした。

アマネと家を出る。真正面に家の屋根があった。ここはマンションかアパートのようだ。俺たちが出てきた扉をふくめ五つの扉が並んでいる。一番はしには階下へつながる階段があった。また、その半分ほどの長さで階上につながる階段もあった。

「さぁいこうかー」

アマネは言いながら廊下を歩いていく。階段で一階まで降りたが、いつものようにニュクスが襲ってくる様子はない。

「珍しいな」

「なにが?」

「いやなんか…穏やかだな?」

「穏やか?そうだね。こっちのほうが面倒なんだけどね。こういう場合のニュクスって隠れて俺たちから逃げてるんだよ。探すのが面倒だし、今日はギョロちゃんがいない。襲ってくるタイプのニュクスならその攻撃方法とか見た目で目当てをつけて鎧を剥がすけど、今日のはそうじゃない。これは厄介だぞー」

アマネはそういいながら楽しそうに笑った。

「じゃあどうすんだよ?」

「どうするのか?とりあえずニュクス見つけて、その姿と様子、プラス町の風景とかで判断するしかないかなぁ。まぁ散歩しよっか」

アマネはのんびりと歩き出す。あまり、急いでいるように見えない。

「手分けするか?」

「手分けするか?え?一緒にいこうよ」

「だって、時間制限とかあるんだろ?目玉だって急かしてたし」

俺が言うと、アマネはカラカラと笑う。

「時間制限?気にしなくていいよ」

「いやでも」

「こんな時じゃなきゃ、コウともゆっくり話せないし」

アマネはメガホンを揺らしながら歩く。生ぬるい風が頬をかすめた。

「仕事とか言ってたわりに不真面目だな」

「不真面目だって?そんなことないよ。仕事は自分のためにするもんでしょ?」

こいつには何をいっても通じそうにない。俺は深く考えるのをやめ、アマネのとなりにならんだ。

「俺と話したいことあるの?」

「話したいことがあるのか?うーん、どうだろ?」

「どうだろって…」

「コウはこういうとき、どんな話をする?」

アマネがとう。

「どんなって…友達と歩いてるとき?んー…バイトの話とか?たいしたことはなしてねぇよ…」

言って隣を見ると、そこには誰もいなかった。振り替えると、アマネが立ちすくんでいる。

「アマネ?」

「ともだち?」

「うん?」

「おれ、コウのともだち?」

なにかまずいことを言ってしまったのだろうか。たしかに、俺たちはニュクスをなだめる仕事で毎回会っている。しかし、年齢の近さや話しやすさからなんとなく友達という表現をつかってしまった。

「友達は、ちがうか?」

俺がいうと、アマネが駆け寄ってきた。そのまま隣を過ぎていく。

アマネが駆ける方向には、黒い影が隠れていた。あれが今日のニュクスか?

アマネはそのまま影を追い続けている。俺もアマネの後を追った。

黒い影はするすると角を通り抜けていく。このままただ追っていても埒があかない。俺は影が曲がった一つ前の角を走った。大通りに出ると、誰もいない。

別の道からアマネが現れた。

「あれ…?」

アマネは不思議そうに呟く。息が荒い。

「どこかに隠れたか…」

辺りを見渡す。今日は月の光が強いため暗さはあまり問題ではないが、視界が悪く、探し物には向いていない道だ。

「ん…?」

なにか違和感がある。俺は一歩下がり、道が視界に入るよう立つ。なにかおかしい気がする。

答えは至極単純だった。影だ。

いま、月の光は俺の左上から射し込んでいる。そのため、道にある電柱やゴミ箱の影は右下にのびているのだが、一つだけ、左側に影があるのだ。

アマネを手で招き、耳元でその事を伝える。アマネはサッともときた道を駆けていった。まわりこんで挟み撃ちにするのだ。

アマネが反対側についたことを確認する。俺はそろりと電柱に忍び寄った。

距離が一メートルまで近くなると、そいつの姿がよく見えてきた。ひょろりとした体、ニュッとのびた手足。全身真っ黒だが、白目からその瞳がしっかり俺を見据えていることがわかる。まるでとかげのような見た目だ。

まずはこいつの鎧を剥がす必要があるが、どうとっかかりをつけるべきかさっぱりわからない。悩んでいると、アマネが口を開いた。

「ヨシイさん?」

アマネが言うと、黒い影は目を見開いてアマネをみた。

「ヨシイさん。知ってるでしょ?」

アマネは臆することなく話続ける。影はなにも言わない。

「俺たち、ヨシイさんの話がしたくて来たんだ」

影がにゅるりと電柱から出てきた。やはりトカゲのようだが、二足で立っている。

「お前ら、アカリのなんだ?」

影がしゃべった。

「知り合いなんだ。同じアパートに住んでて。最近相談にのってた」

「相談?なんの?」

影は首をかくかくと揺らしながらアマネに話しかけている。姿は不気味でグロテスクだが、いままでのニュクスに比べ、コミュニケーションがとれている。

「きみは聞いてないか?」

アマネがとう。

「もしかして、俺たちの交際のことか?」

「交際?きみたち付き合ってたのか?」

俺は全然話についていくことができていないが、大丈夫なのだろうか。そもそも、アマネが言い出したヨシイとかいうのは誰のことなのだろうか。このオネイロスの持ち主ではなさそうだが。

「そんなことも知らないのか」

「知り合ったばかりでね。交際相手までは知らなかったけど、そのような話は聞いてたよ」

アマネは本当にヨシイとかいう女性について知っているのか?もしかして、介入前に資料などを渡されているのだろうか。いやちがう。アマネはいつもオネイロス内の情報で行動していた。きっとこれらのことも、このオネイロスで知ったのだろう。

「知り合ったばかりの相手に相談を?アカリは何を考えてるんだ…」

「ずいぶん悩んでたみたいだ。交際は順調だったのか?」

アマネが尋ねる。影は疑うようにアマネをみている。

「まぁ…。問題はアカリの両親だからな」

「そうそう、彼女、両親にかなり口出しされていたらしいね」

アマネはヨシイアカリという人物のことをさも知っているかのような態度をとっているが、アマネは彼女についてなにも情報をもっていない。彼女のことを話しているのはニュクスだけだ。

「ああ…俺たちは結婚も考えていたんだが、あのクソババアども…あいつらのせいで、アカリはまた引っ越したんだ」

つらつらと影は話を続ける。にわかにそらが明るくなってきた。一瞬朝がきたのかと驚いたが、それはちがった。空が区切られ始めたのだ。小石を文字が包み込み始める。

「はぁん。きみは追ってきたんだ?」

「そりゃそうさ。一人ぼっちにできないからな。最近は部屋でもずっと怯えてるんだ。仕事以外で家からでないし、土日は実家に帰るし…」

「ふん。きみは、一緒にすんでるの?」

「ちがう」

「なら、部屋で怯えてるって知ってるんだ」

「それは、ずっと見守ってるからさ」

空にたくさんの写真が浮き上がってくる。そのほとんどに同じ女性が写っていた。明らかに彼女はその視線に気がついていない。

こいつは…。

アマネに視線を送る。アマネはこちらを気にする様子もない。いや、俺に影の意識が向かないようにしている。今のうちに情報を集めろということか。

俺はそっとその場を離れ、石を拾いあつめた。

「誰なんですかあなた」

「いらっしゃいませこんにちは。お一人様ですか?」

「はい。ご注文繰り返させていただきます」

「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ」

「もうやめて…やめてください…」

間違いない。あいつはストーカーだ。

アマネも、おそらく気づいている。

影はアマネに向かって女性の魅力的なところをえんえんと話していた。くわえて、彼女の両親がどれだけ邪魔をしてくるかを。その姿から徐々に黒が抜け、パーカーを着た青年に変わっていっている。

アマネは相づちを打ちながら話を聞いている。

「はぁ、はやく彼女と結婚できれば楽なんだけどな…ああ、話しすぎて喉が乾いたな。俺の部屋に来るか?」

青年が言うと、アマネがようやく口を開いた。

「いや、遠慮しておくよ」

「どうして?」

「どうして?きみみたいな気持ち悪い男と仲良くなりなくないからさ」

アマネは無表情でそういいはなった。青年の顔がみるみる赤くなっていく。赤に黒が混ざりはじめると、青年は走り出した。

「おい!なにしてんだ」

「なにしてんだって?仕方ないじゃん。ほんとのことでしょ」

青年の後を追う。しかし、アマネは急ぐそぶりも見せない。仕方なく腕をとって走る。

「だからって…いくら攻撃してこないからって、あれじゃ目覚められないだろ」

「それならそれでいいんじゃない?」

「はぁ?」

アマネは空をあおいでいる。薄い唇が言葉を紡ぐ。

「自分を貫くことは大切だ。歴史に名を残す偉人たちはどれだけ周りに非難されたって、自分を信じて結果を残してきた。いいことでも悪いことでもね。自分らしく生きるのに自信は必要不可欠。でもさ、誰かと生きるのには相手を思いやる、共感しようとして想像しなきゃいけない。少なくともおれはそう思う。おれは彼がそういう人間には見えないし、おれが望む人間に変える権利も義理もない。それなら、おれができることは彼と関わらないこと。それだけじゃないか?」

アマネは一息に言い切ると、小さくため息をついた。

「それは…そうだけど…でも、さ、仕事、だろ?」

「そうだよ。仕事って特に責任をもって取り組まなきゃだよね。おれは、彼を起こしてそのあとまたストーカーになったとしたら、自分を許せない。予測できるトラブルがあるなら、おれは責任をもって彼をオネイロスにおいていくよ」

アマネを見る。紅茶色の瞳はぼんやり俺を映していた。色素の薄い髪が風でなびく。月明かりに照らされた頬は不健康なほど白い。アマネは色を持っていなかった。きっと、目に見えないほど薄い膜にアマネは覆われていて、俺とは全く違う空気を吸っているのだ。そう思った。

アマネの腕をそっと離す。アマネは緩く笑った。

「でもさ、コウが彼を助けたいって言うなら、おれはそれを止めないよ。止める権利はないからね」

アマネはそう言うと、腰に結んだメガホンを差し出した。

「…おぅ」

メガホンを受け取り、俺はアマネに背を向けて走った。

目では全く追えていないが、おそらくここだろう。俺はアマネと下りてきたアパートの前に立っていた。階段を上がる。俺たちが出てきた部屋の隣には、吉井という表札が下がっていた。その他の部屋に表札はない。

扉はどこも開かない。悩んでいると、頭上から爆発音が響いた。建物全体が揺れる。身を乗り出して階上を見上げると、真っ赤な炎が煌々と輝いていた。階段をかけあがり、扉を開く。先ほどの青年が炎の中心でつったっていた。これは、もうトドメをささないと俺自身が危険だ。

「おい!」

呼び掛けると、またもや爆発が起こった。青年はゆらゆらとゆれている。

「なぁ!ヨシイさんのこと、好きなんだろ?!大切なんだろ!?」

青年は炎に臆することなく、空一面の彼女を見ていた。

「きみが彼女を想う気持ちは他人の俺でもよくわかる!でもさ!その気持ちをきちんと彼女に届けられてるか!?きみは彼女の気持ちわかってるのか!?」

青年の影がゆらりと動いた。シルエットがしっかりこちらを向いている。

「うるさ」

爆発音。視界が大きく揺れる。足元がおぼつかない。とっさに目をつぶる。一瞬の浮遊感のあと、全身に痛みが走った。眼前でチカチカと光がちらついている。

「コウ」

気がつくと、さかさまになったアマネの姿があった。アマネは手をのばすと、俺の脇に手を差し込み、ぐいと引っ張った。粉塵がまう。

「だーめだって。オネイロスは説教する場所じゃないんだよ?彼を救うには彼の心に寄り添わなきゃ」

不味い。舌のうえがパサパサする。唾液をしぼりだして口の中の異物を吐いた。泥のなかに血がまじっている。

「そろそろ時間だ。戻らないと」

「戻る…?」

「うん。あまり長く滞在してると俺たちにも影響がでるからね」

「あいつのこと…あきらめるのか?」

問うと、アマネはゆるりと頷いた。

「俺たちが、あいつの…人生を決めていいのか?」

問うと、アマネはふわりと笑った。

アマネの手が俺の手を取る。華奢な指からは温度を感じられない。まばたきをひとつすると、そこは俺の部屋だった。アマネの姿はない。

全身の痛みも嘘のように消えていた。

救えなかった。彼の思いに共感できなかった。

アマネの言っていたことは間違っていない。たぶん。それでも、それでも


「コウー」

いつの間にか眠っていたようだ。薄く目を開ける。見慣れた顔があった。

メガホンを受け取り、部屋を出る。目玉はいつものようにビンのなかで、アマネの腰からぶら下がっていた。

アマネの横顔を見る。とても悩みがあるようには見えないが、人は見かけで判断しちゃいけない。前々回、目玉が俺にああ言ったからにはなにかあるはずだ。しかも、目玉にはどうにもできない。そして、知り合ったばかりの俺に頼んでしまうほど、切羽詰まっているのだろう。本人に聞いてしまうのが一番早い。しかし、直接聞いて答えるとは思えない。もしかしたら潜在的なもので、アマネが気づいていない可能性もある。目玉はアマネをよく見ている。客観的に見ていたからこそ気づいたのだろう。俺も、こいつの言動に注意すべきだ。

「…なんか怒ってる?」

「え」

「むすっとしてるから」

「そんなことない」

家の外には田園風景が広がっていた。田んぼがどこまでも続き、ポツポツと平屋だての家屋が見える。当然だが人影はない。水面に映る二つの月が幻想的だ。

隣を歩くアマネは空を見上げている。色素の薄い髪が風でなびいた。きれいだ。男に向けて言う言葉ではないのだろうが、そう思った。

とても静かだ。ニュクスが現れる感じもしない。あぜ道を肩を並べて歩く。俺のほうが少しだけ背が高いようだ。

「アマネ」

「んー?」

「あーと、ああ、えと、介入者、なんだろ。俺とお前は」

「うん。そうだねー」

「俺はその介入者になった記憶がないんだが」

「まあそうだろうね」

「そういうもんなのか?」

「んーコウはそうだろうね」

「俺は?他の介入者は違うっていうのか?」

「他のって言うか、おれはね」

「…ん?その言い方だと介入者は俺とお前しかいないってことみたいだけど」

「そうだよ」

アマネを見る。アマネの瞳には水田が映っている。

「お前は自分の意思で介入者になったのか?」

「おれ?んーどうだったかなあ。まあ、やらないよりはましって感じ」

「はあ?」

突如、目の前に巨大な水柱が立ち上がった。水田から湧き出ている。水の中に何かがいるようには見えない。水柱は球に姿を変えた。

「今日は二人で協力しようか。おれがあいつの気をそらすから、コウはその間に情報を集めて」

「お、おう」

アマネがビンを投げつける。水球が悲鳴を上げ、空が区切られ始めた。

「そういえば、おとといのなんだけどさ」

「ああ?」

アマネが走り始める。龍の姿をしたものがアマネを追いかけた。

「彼が、なにに悩んでたか、ちゃんとわかった?昨日聞いてなかったなぁと思って」

俺は小石を拾い上げ、空の風景と当てはめていく。

「ああ?えーと…正義感が強い奴なんじゃねえかなって」

「正義感?」

文字が頭に流れ込んでくる。アマネは龍の攻撃をギリギリで避けていた。

『気持ちわりい。触んなよ』

『ああ…たった一人の息子だ。この子のためにももっと働かなきゃな』

『ねえ聞いた?あいつ先生が好きらしいよ』

「あいつの視界には、なんていうか、人に迷惑をかけてたり、ルールを守ってない奴らがたくさん映ってた。から…」

「まあ、だいたい合ってるよ。彼は、とてもまじめな子なんだ。幼いころに教えられた道徳を、今でもしっかり守っている。人に優しくしましょう。迷惑をかけないようにしましょう。交通ルールを守りましょう」

龍の口から水球が発せられた。アマネはそれを避けたまま、水田に落ちた。

「おい!アマネ!」

龍がこちらを向く。俺はあたりに散らばった小石を拾い上げ、走った。

『私の育て方がいけなかったのかしら…』

『お前、俺のことそんな風に見てたのか?』

空を見上げる。

複数の少年に見下ろされている風景。

頭を撫でている男性の姿。

テーブルに両肘を立てて顔を覆う女性。

龍がこちらに向かって飛んできた。

「飛び込め!」

アマネの声だ。言われるまま田んぼに飛び込む。龍はすれすれを飛び去った。

「じっとしてろ!」

声がすぐ近くで聞こえる。あぜ道を見上げると、どろどろになったアマネがいた。どろを払いながら遠ざかる。

「成長するにつれて、彼は知った。自分が当然だと思っていたことが、そうではなかったこと。それを教えてくれた大人たちでさえも、それをできていないこと。彼は間違っているのは周りか自分か、わからなくなった」

アマネはメガホンを口元にあてる。

「こっちだああああああああああ」

声に反応し、龍がアマネめがけて飛んでくる。アマネはそれをよけ、走って行った。

「まあ、おれもこんなふうに言ってるけど、彼の悩みの全部を理解してるわけじゃない。一見同じような悩みだって、その人その人で欲してる言葉は違う。疲れた時に「がんばれ」って言ってほしい人と「休んでいいんだよ」って言ってほしい人がいる。オネイロスはその人の思い出の倉庫だから、情報は集めることができるけど、その情報をどう扱うかは俺たち次第。情報が全くなくたって相手の心に響く言葉が出るときだってある」

あぜ道に這いあがる。

俺はメガホンを取った。

アマネが田んぼに落ちた。

「お前はきれいだああああああああ」

龍がこちらを向いた。勢いよくこちらに飛んでくる。

「お前は一人じゃない!」

龍を避けるために右手に飛ぶ。腕の痛みを気にしないように駆ける。

龍が追ってきている。

「さみしいのは嫌だよな!?でも、みんなそうなんだ!みんな同じような顔して、みんな違うんだ!みんな一人なんだよ!誰も分かり合えない!誰も理解できない!それでも!お前と近い価値観の人間は必ずいる!この小さい世界に縛られるな!周りの奴らに騙されるな!」

背後を伺う。そこにもう龍はいなかった。詰襟の制服に身を包んだ青年が追いかけてきている。そのまま後ろをむき、走る。

「自分と、自分の大切な相手の言葉を信じろ!俺のことは信じなくたっていいから!お前が!!だれよりも幸せだと胸を張っていろ!!」

どれだけ走っただろう。胸が苦しくなってきた。運動不足のせいだ。体が悲鳴を上げている。全身が熱い。それは彼も同じなようで、真っ赤な顔は汗にまみれている。酸素を取り込もうと必死な口が、大きく開いた。

「ぼ、ぼく…」

「ん!?」

「僕、いいのかな!?誰かを好きになってもいいのかな!?」

「そんな許可いらねえよ!」

人間の姿になってから俺たちの距離はどんどんあいていっている。俺はスピードを緩めた。

「お前が思ってること言ってみろ!」

彼はもう体力の限界らしく、今にも止まってしまいそうだ。しかし、足を止めない。

「僕は!気持ち悪くない!」

青年の足がぶるぶると震えている。

「僕はおかしくない!」

「ああ!そうだ!」

青年が転んだ。顔面をしたたかに打ち付けている。驚いて走り寄る。肩を揺さぶると、青年の顔は運動と鼻血で真っ赤になっていた。

「おい、大丈夫か」

青年は鼻血を腕で強引に拭うと、笑顔を見せた。

「ありがとう。もう大丈夫」

透明な破片が落ちてきた。見上げると、空が砕けて落ちてくる。

田んぼの水があふれてきた。あぜ道が揺れる。オネイロスが崩壊する。

青年は俺の腕を取った。

「あなたは僕のヒーローだ」

青年の姿が光に包まれていく。まぶしくなって目を閉じると、瞼を上げるともうそこには誰もいなかった。

「お疲れさま」

アマネだった。手にはビンを、メガホンは腰に提げている。

「あいかわらず、彼の悩みはわかってない?」

アマネはニヤニヤしながら言う。

「あー…同性愛者なのかなーとは…」

俺が心もとなく言うと、アマネはうんうんとうなずいた。

「そ。彼は同性愛者で、先生を愛してしまったんだね。そしてその情報は、この狭いコミュニティーでまたたくまに広がった」

「アイって、ナンだ?」

目玉が言った。その瞳はアマネをとらえている。

「ちょ…急に哲学の話し始めないでよ」

「テツガク?」

「ああもう…」

アマネは眉をしかめてなやみはじめた。しかし、俺の視線に気がつくと、スッと背筋を通らせた。

「愛っていうのはねー、対象のことが気になって気になってしょうがないことだよ!」

「ソレはコウキシンとチガうのか?」

「エッ」

アマネはなんともいえない表情で目を泳がせている。その様子は面白かったが、そろそろ助け船を出してやることにした。

「愛なんてのは、そうなったらわかるもんだって!よし、また明日だよな、アマネ」

アマネの方を見ると、先ほどの情けない顔とはうってかわって、アマネはなんの感情も感じられない能面のような表情で俺を見た。

「ううん、違うよ」

あぜ道が崩れ、奈落に落ちていく。砕けた空がパラパラ舞っている。

「どういうことだ?」

どこまでも落ちていくかのように思われたが、そんなことは無かった。落下速度は少しずつ落ちていき、小さなかけらが集まって空間を作り出していく。

ふわりと着地したのは自室のベッドの上だった。

「こうやって俺の部屋に戻ってきてたのか。で?今日はもう一人やるのか?」

「まあね」

紅茶色の瞳がじっと見ている。目を離せずにいると、先に逸らしたのはアマネのほうだった。

「オイ、まさカ」

目玉の言葉も聞かずに、アマネは部屋の隅に寄っていく。こちらに向き直り、壁を殴った。できたばかりの空間はもろくも崩れ去り、外の風景が見える。これは、俺の街だ。まるで、自分の部屋だけが宙に浮いているようだった。

アマネがメガホンを口に当てる。しかし、こちらに向けることはしない。

「もう、結構慣れたよね」

いつもと違う雰囲気に違和感を感じつつ、俺は口を開いた。

「まだまだだよ。お前みたいに、相手のこと深くわかってあげられてないし。運がよかっただけだ」

「だから、そんなの必要ないんだって」

「アマネ…?」

紅茶色に影が差す。その表情からは何も読み取れない。

「人を救うって、簡単なことじゃない。おれが成功してたのは、あいつらの記憶を勝手に見て、あいつらの心に直接言い聞かせてたからだ。現実は、そうはいかない。励まそうとして傷つけたり、ふとしたことが相手の支えになる」

「…それ、前から言ってるけどさあ。つまり、俺たちがどんだけ頑張っても無駄ってことか?」

問うと、アマネはかすかに笑った。

「コウ、これまで三人助けてきたじゃん」

「最初の一人はお前だろ」

「はは。まあまあ。…でさ、人を救うのに、一番大切なことってなんだかわかる?」

「ええ…なんだろ…共感する力かな」

「うん。それがあれば、きっと人を救うのも難しいことじゃなくなる。でも、それじゃないんだ」

アマネは床のぎりぎりの部分を歩いていた。見ているだけでひやひやする。手を引いて安全な場所に移動させたいが、近寄ったらそのまま落ちてしまいそうだった。

「人を救いたいって気持ちだよ」

「…それがなきゃ人を救おうなんて思わないだろ。本末転倒だ」

「まあね。でも、それがなきゃ人は救えない。そうでしょ?」

ベッドの対角線上にアマネは立った。

「…なにが言いたい?ていうか、ニュクスは?」

「実際、救えたか救えなかったかなんてはたから見てもわからない。傷ついたまま笑顔の奴はいるし、助けられても表情に出ない奴もいる。わかんないんだよ。小説や漫画みたいにわかりやすいハッピーエンドなんてない。楽しいことがポツポツあって、いやーなことが薄い雲みたいにそこら中にはびこってる」

アマネは俺に向かってメガホンを向けた。大きく息を吸い込む。これが、今までメガホンを向けられてきたニュクスの気持ちか。と思った。

「それでも!救われてるやつはいるんだ!絶対に!コウは!人を救うことができる人間だ!お前の人を救いたい気持ちは作られたものじゃない、お前自身のものだ!そうだろ!?」

グニャグニャと世界が歪んでいく。空はどろどろに溶け、隙間から光が差し込んでくる。そうか。あれが、本物の光か。

「アマネ…」

「楽しかったよ、コウ。じゃあね」

アマネが遠ざかっていく。視界が白く包まれる。

そうして俺は目を覚ました。

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