メデューサさんは海が好き(1)
夏。それは海をとことん堪能出来る唯一の季節。
ナンパ待ちの意識高い系サングラスお姉さん、ヤンチャな日焼け陽キャ軍団、せっかく作った砂のお城が波にさらわれ泣き出す子供。
「うん、良い海日和だ」
「……蛙ちゃん、絶対変なこと浮かんでたろ」
私達がどこにいるのかというと、家から少し離れたところにある夏の定番。
そうーーーーー海だ。
「あづいぃ……そじできもちわるぅ……おいぃ、ゴキブリ女ぁ……水をくれぇ……」
「駄目だっつの、これ私の。いいから飴玉しゃぶってろ。スズメ、ジュース買ってきてくれ。私と蛙と……雑草の分な。吐かれると困る。はい、お金。余るはずだから、それで好きなの買っていいからな」
「うんっ! お姉ちゃん!」
私、メデューサさん、クロさん、スズメちゃんの四人で現在海におります。
早朝、玄関の扉が勢いよく開き、「暑いから海行くぞ海!」と、クロさんの突然すぎる襲来で決まった海へのお出掛け。
クロさんの車に乗り、道中で水着も購入しながら海へとあっという間に到着した。水着選びはメデューサさんがクロさんに突っかかりすぎて時間かかったっけ。
メデューサさんは初めて乗る車にウキウキしてたけど、今はすっかり酔ってグロッキーです。
「はい! 買ってきたよ! 蛙さんとー、お姉ちゃんとー、ミドリさん!」
「ありがとな、スズメ。雑草! 礼をちゃんと言えよ?」
「言うに決まっているだろうが! まったく……スズメ、すまない。吐きかけていたがなんとかなった……」
「いえいえ! 車酔いはしょうがないので!……格好悪いけど」
「また白い目! 凹むから止めて!」
車で水着に着替え海岸に降りると、クロさんが砂浜にシートとパラソルを設置してくれていた。パラソルの模様は白と赤で、シートは何故か蛇と蛙が小さく無数に描かれたデザインだ。
「これで良し、と……」
「クロさん、手伝うことありますか?」
「おー蛙ちゃん。もう出来たから大丈夫だよ。にしても、似合ってるなその水着。水色、空のように心が広い蛙ちゃんにはピッタリだ」
なんだか恥ずかしい。水着なんて久しぶりに着るから、素肌を露出させている感覚が少し落ち着かない。
クロさんはイメージ通り黒で統一され、三角形が特徴の水着だ。腕にバングル、首にチョーカーがついたりしてて、凄くお洒落。今はパーカーを着ているけど、脱いだら凄そう。
「お、二人も来たな。おーい! こっちだ!」
「お待たせしましたー!……み、ミドリさん、いい加減私の後ろから出てきてもらえませんか?」
「い、いや、だって、なんか……恥ずかしい!着たは着たが……」
スズメちゃんの水着は白で統一され、トップがフリル付きで凄く可愛らしい。アンダーにもシュシュが付いていて、まるで水辺の妖精だ。
一方メデューサさんは……見えない。
「ミドリさん、出てきて」
「い、嫌だ……他の人間達も想像以上に多くて……恥ずかしい!」
いつもの威勢は羞恥心で消え去ったということなんだろうか。いつまでたってもスズメちゃんの後ろに隠れている。
「はぁ……おら!離れろ!」
「な、何をするゴキブリ女! くっ、人間にしては力がつよ……あっ」
難なく剥がされ、その体が顕になった。
「なんだ、似合ってるじゃないか。うん、やっぱり私の選んだ水着なだけあるな」
「くっ……悪魔め……」
……その姿はとても綺麗ーーーそんな簡単で普通な感想しか出てこない程みとれてしまった。
引き締まった括れと十分すぎる大きさの胸が、ダークグリーンの水着の色合いに非常にマッチしてて、誰が見ても目が引き寄せられそうだ。女の私でもそうなるくらいだし。
紐で固定するタイプの水着のためか、胸が締め付けられ、張りが出ている。
「ミドリさん、とっても綺麗だよ」
「なっ!? ……か、からかうでない……うぅ」
メデューサさん可愛い。なんだか、手繋ぎたくなっちゃうな。
『……える…………きょ……う…………でいっ……あそ…………うね』
ーーーーー砂嵐にあったかのように、突然私の視界が別の風景になった。これは忘れていた記憶。いや、忘れようとしていた記憶。必死に、必死に、思い出さないようにしていた……楽しかった光景。
「おい! 蛙!」
視界は元に戻っていた。目の前にはメデューサさんがいて、私の頬が両手で挟まれている。
「ばいびょうぶあよ」
「そうか! ならいいが、突然ボーッとしだしたからな……心配してしまった」
「ありがとね……メデューサさん」
「ーーーーうむ」
周りを見ると、クロさんとスズメちゃんも心配そうな眼差しをこちらに向けている。
「熱中症になったら危険だからな。水分はこまめに取るんだぞ三人共」
「はーい! お姉ちゃん!」
「良し。そこの二人は特にだぞ?蛙ちゃんは今少し危なそうだったし、雑草は言わずもがなだからな」
「おいゴキブリ女、我の扱い雑すぎないか」
「雑草だからな」
「ふんぬぅうううううっ!」
闘牛のように襲いかかるメデューサさんを、軽くあしらうクロさんの姿は、まるで熟練の闘牛士のようだ。
「あははー……いつもいつもお姉さま方は争ってますねー」
「うん、見てて楽しい」
「喧嘩するほど仲が良いといいますか」
「違いない」
二人で笑いあっていると、メデューサさんがトボトボ寄ってきた。頭には大きなたんこぶが出来ている。
「ぶたれた……姉にもぶたれたことないのに……」
「痛かったね、よしよし」
「ぅう……かえるぅ……」
メソメソ泣き出すメデューサさんを撫でていると、クロさんが腕組をしながら声をあげた。
「よし、お前ら!せっかくの海だ、めいいっぱい楽しんでこい!」
「「おー!」」
「……ひっく……おぉぉおおお……」
一人だけなんだか悲壮感溢れる掛け声だけど、ま、いっか。
クロさんは場所確保のために残り、私含めて三人で海へと駆けていった。
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