メデューサさんはキスがしたい


「な、なぁ……」


「めでゅうささん」


「ち、近付くな蛙!」


 手は伸びていく。めでゅうささんの体をまさぐるために。


 豊満で実りに実ったいやらしい胸が、私の心を刺激する。


 ーーーー触りたい。ただただ、触りたい。


 そして、めでゅうささんの困った顔が見てみたい。見たくて見たくてしょうがない。


「お、落ち着け蛙、な? 触られるのはいいが、そのいやらしい触手のようにうねうねさせてくる手は何だか信用出来ん!」


「めでゅうさ、さんーーーーー好き」


「ひゃいっ!」


 意識が朦朧とする。めでゅうささんの言葉も途切れ途切れだ。


 好き好き好き好き好き好き好き。そんな、単純で直球な言葉しか浮かんでこない。


「蛙、お前は……本当に我のことを」


 胸に手が触れる。人差し指と中指でなぞるように周りを触り、柔らかい肉を蛇のように絡めていく。


「んっ……や、やめ……」


 私はもう止まらない。止まれない。どうしても、止まれない。


「蛙、私は……私は……」


 先端の周りを撫で回す。顔も埋め、強く強く抱き締める。めでゅうささんの匂いを嗅ぎたい、めでゅうささんの汗が舐めたい。めでゅーささんの体を堪能したい。


 めでゅうささんと……キスしたい。


「はぁはぁ……私も……お前のことがっーーーーー」







「メデューサさん、何それ」


「ふっ、これはな……飲んだ相手が飲ませた相手に惚れてしまう飲み物だ」


「ほれ薬?」


「そうだ! なんだ知っているんじゃないかぁ」


 まるでどこかの青いロボットがとんでもない道具を突然出してきたように、唐突にメデューサさんはほれ薬なるものを取り出した。


「メデューサもん、それは何に使うの?」


「あぁ、これは……なんだメデューサもんって……まぁいいか。これは、今言った通り、相手を自身に惚れさせたい時に使うのだ。最も、時間は限られているがな」


「時間?」


「飲ませたとしても、効力は時計の細い針が一周する程度だ。完全に惚れさせることは出来ん」


 手で覆えるような小ささの惚れ薬が入った壺を、ちゃぶ台の上にゆっくりと置いた。


 惚れ薬なんてこの世にあったんだなぁ……いや、メデューサさんが力を使って突然この場に出したから、この世のものじゃないのかも。


「ま、勿論使うわけじゃない。出したのは、整理をしようと思っただけだ」


 そう言うと、いきなり多量の壺がちゃぶ台の上に現れた。


「うわぁ」


「我の力で、独自の異空間を所有していてな。その中に多量の薬を昔から入れていたのだ。力を取り戻すまで何も出来なかったからな、今のうちに整理をしておきたいのだ。安心しろ、どれも使うわけじゃない。整理するだけだから、気にせんでいいぞ」


 まるで四次元ポケットだ。本当に、某ロボットを彷彿とさせる。


「さて、取り掛かるか! ……と、その前に用を足して……いだっ!」


 立ち上がった拍子に、脛を台の角にぶつけたようだ。


 と同時に、ちゃぶ台は私の方へひっくり返ってくる。動きはスローモーションに見え、メデューサさんがなにやら言っているよう。


 目の前に多くの液体が現れる。避けきれない。逃げられない。例え、見える動きが遅くても、自分も遅いんじゃ意味がない。


 そして、壺の割れる音と共に、私の全身に中身がほぼ降りかかった。


「か、蛙! すまない! 大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよーーーーーめでゅうささん」


「な、なにやら舌が回っていないな……」


 舌が回らない。視界もぼやけていく。頭もボーッとする。体が熱くなっていく。


 めでゅうささんしか、視界に入ってこない。


「おーい、かえるー? ……まさか、薬が口に入って……ひゃんっ!」


 目の前に大きなお肉が二つ。柔らかそう、とっても柔らかそう。


 手は乱暴にそれをまさぐった。粘土を変形させるように、激しく、過激に。


「んぁっ、やめ、ろ……かえ、るっ! くっ、えぇい!」


 いだい。咄嗟に吹き飛ばされ、壁に激突した。でも、そんなの構わない。


「す、すまんつい! って、どうするこの状況!嬉しい、嬉しすぎて涎が出てくるが、こんなの本意ではない!」


「めでゅうささん」


「ち、近付くな蛙!」


 手は伸びていく。めでゅうささんの体をまさぐるために。


 豊満で実りに実ったいやらしい胸が、私の心を刺激する。


 ーーーー触りたい。ただただ、触りたい。


 そして、めでゅうささんの困った顔が見てみたい。見たくて見たくてしょうがない。


「お、落ち着け蛙、な?触られるのはいいが、そのいやらしい触手のようにうねうねさせてくる手は何だか信用出来ん!」


「めでゅうさ、さんーーーーー好き」


「ひゃいっ!」


 意識が朦朧とする。めでゅうささんの言葉も途切れ途切れだ。


 好き好き好き好き好き好き好き。そんな、単純で直球な言葉しか浮かんでこない。


「蛙、お前は……本当に我のことを」


 胸に手が触れる。人差し指と中指でなぞるように周りを触り、柔らかい肉を蛇のように絡めていく。


「んっ……や、やめ……」


 私はもう止まらない。止まれない。どうしても、止まれない。


「蛙、私は……私は……」


 先端の周りを撫で回す。顔も埋め、強く強く抱き締める。めでゅうささんの匂いを嗅ぎたい、めでゅうささんの汗が舐めたい。めでゅーささんの体を堪能したい。


 めでゅーささんと……キスしたい。


「はぁはぁ……私も……お前のことがっーーーーー」


 唇は引き寄せられるようにめでゅうささんの唇へ向かっていく。プルプルとした瑞々しい潤った柔らかそうな唇。ずっと、吸い付いていたい。


「かえ、るーーーー」


 体の火照りは最高潮に達する。めでゅうささんの体温も上昇していくのが肌で感じる。拒否なんてない、拒絶なんてない。あるのは肯定のみ。


 私は、めでゅうささんの全て受け入れ……。




「どうしたの? メデューサさん? 口尖らせて」


「ちゅー……ん? あれ?」


 どうしたというんだろう、顔近付けて。そういえば、薬は整理出来たのかな。


「か、蛙! まさか正気に……」


「正気?」


 私はなんともないけど、なんだろ。


「そ、そうか! なら良かった……にしても効き目解けるの早すぎだろ……もうちょっとで、もうちょっとで……」


「なんか言った?」


「な、なんでもない!」


 よくわからないけど、周りを見ると壺が割れて中身が全部撒かれている。


「うわぁ」


「あ、だ、大丈夫だこれは! 我がなんとかしておこう」


「そう? なら頼もうかな」


「そ、そそそそそそそれでか、蛙!」


 動揺が口に表れている。顔もなんだか真っ赤で、指と指を絡ませてモジモジしている。


「こ、今夜……い、一緒に寝たい」


「いつもじゃん」


「そ、そうだが……今夜は、ずっと抱き締めておきたいのだ!のだぁあああっ!」


 子供のようにおねだりをする様は、私が母親になったようだ。


「いいよ、いつものことだし」


「やったぁああ! よし……うへへ……えへへぇ……」


 なんだか邪悪な空気を醸し出しているけど、私達は夜、一緒に密着しながら眠った。


 その次の日の翌朝、顔にたくさんのキスマークがあったのだった。



「ーーーーー涎臭い」

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