ドス黒なずみ童話 ⑤ ~どこかで聞いたような設定の娘の婚活~(後編)

 我が目を疑うラプンツェル。


「えっと……このスマホという魔法が、おば様の心の言葉をこうして私に見せてくれているということですか?」


「魔法じゃねーし」とボソッと呟いたグリムンは、人差し指をスマホの表面へとスッスッとすべらせた。


 すると、ゴーテルの心の声はラプンツェルへとまだまだたくさん届けられる。


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 ラプンツェル保護師 @Gotell-Tall-tower


 損害賠償金をしっかり払うか? それとも子供を私に養女として差し出すか?」と言われて、なんでためらいもなく実の子を差し出す?!!

 代わりなんてない自分の子より、数年ばかり頑張って働いたら払える金の方が惜しいんか、クズ親め(# ゚Д゚)


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 ラプンツェル保護師 @Gotell-Tall-tower


 ワイの10人のラプンツェルたち。一番上はもうすぐ18才、そして下は生後3か月。それぞれに住居を与えて、ワイが食事を作って掃除しに行ってる。

 ワイももう年だから、それぞれの住居は近いところにあるとはいえ、正直疲れるし、睡眠不足。でも、やっぱりラプンツェルたちは可愛いのう(*^▽^*)


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 ラプンツェル保護師 @Gotell-Tall-tower


 なんか、誤解してる者どもがいるようだが、言っとくけど、ワイは生後3か月とか幼児のラプンツェルを1人なんかしてないぞ! ワイはDQNとは違う。

 幼児については、性質のいいゴーストたちに声をかけ、空へと昇らせてやることを条件に一定期間だけベビーシッターとして雇っとる。何かあったらゴーストたちがワイを呼びに来てくれる。これぞ、ワイだからこそできる子育て法www


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 おば様――ラプンツェル保護師@Gotell-Tall-towerの心の言葉を見る限り、”ラプンツェル”は自分の他にも9人いるということだ。

 ラプンツェルは覚えていないも、ゴーテル不在時は、かつて幼児であった自分もゴースト(この言葉の意味はかろうじて分かる)に子守りされていたということか?

 いや、そんなことより……



「これで分かったでしょう? というか、お宅自身も本棚に『ラプンツェル』を置いていながら分からなかったのが不思議ですけど、魔法使い・ゴーテルに監禁されて、虐待を受けているんですよ」


「虐待……?」


「食事をもらえなかったり、殴る蹴るの暴力を受けたり、『シンデレラ』みたいにこき使われたり、『ヘンゼルとグレーテル』みたいに森に捨てられ育児放棄されたりするのだけが虐待じゃありませんよ。今までにお宅へインタービューした限り、学校にも行かせてもらってないそうじゃないですか? 社会で生きていくための様々なことを学ぶ機会を奪うことも、俺は虐待だと思ってます。仮にお宅、この塔から放り出されたとしたら、1人で生きていけます?」



 答えられないラプンツェルに、グリムンはなおも続ける。


「外の世界は広い。いろんな奴らがいて、いろんな楽しみに満ちているんです。せっかく生まれてきたんだから、楽しんだ方がいいと思いますよ。俺と一緒にここを出ていきましょう」


「……グ、グリムンさんはやっぱり私を外の世界に連れ出してくれる王子様なんですね」


 潤んだ瞳で、グリムンを見たラプンツェル。

 だが、グリムンは顔をしかめて、ラプンツェルから目をそらす。


「だからぁ、俺は王子様じゃなくてユー〇ューバーなんですって。いまや、チャンネル登録数800万人越えのね。お宅がお宅だけの王子様を求めてる、つまり結婚するのが目標って言うなら、自分の足で探しに行かなきゃ」


「で、でも、娘の方から王子様に近づいて声をかけるなんて……」


「は? 現代の先進国の女は、アクティブにいろんな生き方が選択できるんですよ。お宅は魔法使いゴーテルに、ゆるふわなメルヘン童話ばっかり心の養分として与えられてたんでしょうけど、”姫という立場にあるわけでもなく、ましてや全く美人でない女”のところに王子様なんてやってくるわけないですよ」


「え? 私は美人ではない……私は美しくないということですか?」


「…………あのですねぇ……メルヘン童話のなかじゃ、若い娘イコール美しいって方程式になってんでしょうけど、若い娘が皆、美しいワケないでしょ。俺は心にもないお世辞なんて言える性質じゃないから、はっきり言いますけど、今のお宅の外見、かなり”ヤバい”ですよwww」


「ヤバい……?」


 ラプンツェルは首を傾げる。

 ”ヤバい”の意味が分からないだけでなく、グリムンの語尾に含まれているwwwも読み取れない。


「”ヤバい”っていうのは、つまり”ダサい”ってこと……あ、いや、流行おくれであり清潔感もないということですよ。もともと美人に生まれた女ですら外見を磨いて、いろいろ手入れしてるっていうのに、お宅は口回りのうぶ毛すら剃ってないですよね。この様子じゃ、体のあらゆるムダ毛だって生やしっぱなしなんでしょう? いまや男だっていろいろしてるんですよ。俺だって髭の医療脱毛とか”いろいろ”受けたし」


 実を言うと、グリムンが言った”いろいろ”の中には、彼の顔面を少しばかり外側から美容技術を持ってして整えることも含まれてはいた。

 何も言葉を出せなくなり、目に涙を溜めたまま俯いてしまったラプンツェルにグリムンは続ける。


「俺、ユー〇ューバーになる前は、ヘアスタイリスト齧ってたんです。だから、美意識やセンスにはそこそこ自信ありますよ。お宅は女にしちゃあ、背は高い方だし、骨格はストレートタイプだし……そんな似合いもしない、失敗したウェディングケーキみたいな学芸会ドレスより、もっとシュッしたラインのカッチリした服を着た方がいいですよ。『グリムンが外界より隔離されていたラプンツェルを今風お洒落ガールにプロデュース』って名目で、俺と一緒にユー〇ューブに出演しましょうよ」


 ”ヘアスタイリスト”というグリムンの前職が、ラプンツェルに分かるわけがなかった。もちろん”プロデュース”や”一緒にユー〇ューブに出演”という言葉の意味も。

 けれども、グリムンは――ラプンツェルというビジネスパートナー、つまりはビジネスチャンスを逃すまいとしているグリムンは、まだまだ続ける。ユー〇ューバーらしく、喋るのが得意な彼は、饒舌に続ける。



「その長ったらしい不気味な髪だって、丸いフェイスラインを生かしたウェービーなボブヘアに俺がカットしますよ。もちろん、生中継でね。今のお宅の髪は『ラプンツェル』みたいっていうより、ヘアケアも碌にされてなくて毛先もバサバサで正直、人には不快感しか与えません。まだサダコの方が清潔感あって美髪ですし」


「サダコ……?」


「ほら、お宅が一番好きだって言っていた『竹取物語』発祥の国で新たに誕生したホラーヒロインですよ。テレビの中から出てくる彼女を俺は正直今でも忘れられません。一種の忘れられない女ですよ。別の国でリメイク版まで作られるほどの人気で、リメイク版のサダコの名前はサマラっていうんですけど……あ、いや、ンなことは今は重要なことじゃなくて……」


 コホンと咳払いをしたグリムン。


「どうです? もし、お宅が俺のビジネスに協力……俺のビジネスパートナーになってくれるっていうなら、『竹取物語』やサダコが誕生した国にだって連れて行きますよ。金とパスポートさえあれば誰だって行くことができるんだし。飛行機で空を飛んでね」


「……空を飛ぶ? 飛行機っていう鳥の背中に乗れば、魔法使いのおば様でなくとも、空を飛べるということですか?」


 ますます混乱するばかりのラプンツェルは、グリムンの「あ、やっぱり『飛行機』が何なのかすら知らないのか? でも、こりゃあ、さらに美味しいかもwww 『ラプンツェル、初めての飛行機&初めての海外旅行』ってことで、再生回数ますます増えるよな」という独り言すら聞こえてなかった。


「俺と一緒に稼ぎ……いや、外の世界へと足を踏み出しましょう。自分のプライベートを切り売りしてことのことになりますけど、自分でお金を稼ぐ楽しさだって知ることができますし、いまやこのスマホ1つで世界中の人とつながることだってできる時代なんです。それに自分自身を磨き抜いたお宅が”お宅だけの王子様”を探す”婚活”だって……」




 グリムンの言葉が最後まで終わらぬその時であった。

 

「そうはいかないよ」


 窓の外より、魔法使い・ゴーテルの声が聞こえてきた。

 風もないのに、バッと開かれた窓より箒に乗ったゴーテルが姿を現した。


 箒から下りたゴーテルは、「ふーやれやれ」と腰をつらそうにさすっていたが、すぐに顔をあげて、自分が作り上げたこの塔への侵入者を睨みつけた。


「あんた……確か、グリムンとかいうユー〇ューバーだね。動画ンなかじゃ、上背がありそうに見せてるけど実物は男にしちゃチビだねえ。それに何だい……もっと腕のいい医者に”顔面工事”を頼むべきだったねえ」


 ゴーテルの侮辱に、グリムンがムッとする。

 怒りで頬をわずかばかり紅潮させたグリムンを見て、ゴーテルがフフンと鼻を鳴らす。


「私からラプンツェルを取り上げて、あんたの飯のタネにする気なのかもしれないけど、そうはいなかいよ。私はラプンツェルを、いやラプンツェルたちをずっと大切に守ってきたんだ。それぞれの塔の中で、醜いものや汚いものには一切触れさせずにね」


 そう言ったゴーテルは、ラプンツェルに視線を移す。ゴーテルの瞳は潤んでいた。


「ラプンツェル、なんで私の言いつけに背いて、よりにもよってこんな男を塔の中に入れたんだい? この男は、”あんたに寄生し、骨の髄まで喰いものにしようとしてる”んだよ。不条理で汚い世の中から生まれて、調子に乗っている俗物にもほどがある男さ。あんたを単なる一時の商売道具としか見ていない男さ」



「……俺がラプンツェルを一時の商売道具としか見ていないっていうなら、あんたはどうなんだ? あんたは”ラプンツェルたち”を1人の人間として見ているのか? ラプンツェルの自我が目覚める前から、塔の中に閉じ込めて洗脳して、あんたの保護下以外では生きていけないようにして……それに、魔法使いとはいえ不死身ではないんだろ? いずれ、あんたの方がラプンツェルたちより先に死ぬんだろ? 俺より何倍も長く生きてるはずなのに、なんでこんな自然の摂理を理解していないかなwww あ、理解していても考えないようにしていただけか」


 今度はグリムンがフフンと鼻を鳴らす番であった。

 何も答えられなくなったゴーテルに彼はさらに追い打ちをかける。


「あんたは結構な財産家らしいけど、金は稼がなきゃ減っていくだけなんだよ。だから、手に職もなれければ学歴もないラプンツェルに、人気ユー〇ューバーのこの俺が今の時代だからこそできる稼ぎ方も教えてやろうとしてんの。”世の中から隔離され続けてきたラプンツェルだからこそ”できる稼ぎ方をね。最初は興味半分であっても、嘲笑交じりであっても、アクセスされて再生されたもの勝ちなんだよ」


 グリムンがニッと笑う。

 セラミック治療とホワイトニングをしっかりと受けた歯が彼の唇からこぼれる。

 完全なるグリムンの勝利へと近づいているこの展開のうえ、さらに――



「きゃっ!」


 塔の外からの聞き慣れぬ音に、ラプンツェルが飛びあがった。

 パーフーパーフーという音。

 何やらただならぬ音、何かの危機をほとばしらせているかのよう音であるのはラプンツェルにも分かった。


「あ、警察のご到着だ。俺、さっき、こっそりと指一本でLINEでユー〇ューバー仲間に通報の依頼したんだよwww あんたもストレスたまってたのか知らないけど、いい年こいてTw〇tterで犯罪自慢なんてバカッター行為をしてたから、特定されてしまったんですよ」


 プッと笑ったグリムンは部屋の扉付近へと行き、”横長の黒い長方形”の横にあるボタンをピッと押した。

 エレベーターのボタンを。

 警察をこの部屋に突入させるためのボタンを。


 それから数分もしないうちに、揃いの青い服を身に付けた厳つい体格の幾人もの男性がこの部屋にドッとなだれ込んできた。

 ゆったりふわふわした甘やかなラプンツェルの部屋は、グリムンの香水とは全く違う、男たちの肌から発されるムンムンとした熱気と匂いによって満たされた。



 ゴーテルは逃げなかった。

 開きっぱなしの窓より箒に乗って逃げようと思えば逃げることができたはずなのに、逃げなかった。

 ただ俯いたまま、肩を震わせていた。


 ラプンツェルはただ見ているしかなかった。

 ずっと自分の面倒を見てくれ、読み書きも教えてくれ、綺麗で素敵なものたちでこの部屋をいっぱいにしてくれた”優しいおば様”に手錠がかけられるのを……

 警察官に連行されていくゴーテルの後ろ姿は、ラプンツェルが今までに見たことないくらい小さなものであった。


 

 こうして――

 ラプンツェル、いや、他9人のラプンツェルたちもゴーテルの監禁下から救出され、保護された。

 10人のラプンツェルは皆、外傷は一切なく、健康や栄養状態、情緒等にも全く問題はなかった。


 ゴーテルの裁判中に18才の誕生日を迎えたラプンツェル以外の者は、皆、それぞれの里親の元で育っていくことになった。

 ネットニュースで見る限り、ゴーテルは「ごめんよ、約束通り、あんたたちは空へと昇らせてやるよ。あんたたちゴーストは拘置所にいる私のところまでやってくるなんて、お手のモンだもんね」とブツブツ言っているため、刑務官に気味悪がられているらしかった。



 ラプンツェルは、人気ユー〇ューバー・グリムンのビジネスパートナーとなることを選んだ。

 元ヘアスタイリストのグリムンに、ただ長くて重いだけの髪の毛を切ってもらい、今風のボブヘアにしてもらった。

 グリムンの狙い通り、『グリムンが外界より隔離されていたラプンツェルを今風お洒落ガールにプロデュース』は、”何事にも驚いた反応を見せるラプンツェルの初々しい(?)魅力”によって、動画再生数ならびにチャンネル登録数を伸ばし続けていた。


 ダサくてムダ毛の手入れもなっていないラプンツェルはみるみるうちに、当社比ではあるもキラキラですべすべの18才の女の子へと変身していく……

 まさに、シンデレラ・ストーリーであった。


 グリムンと一緒にテレビ出演までをも、ラプンツェルは果たした。

 ラプンツェルはパソコンやスマホなどもほどなく使いこなせるようになり、グリムンの”工事前”の顔写真までネット上でついに見つけてしまったり、自分やグリムンに対する心無い中傷コメントに関するスルースキルまでも徐々に身に付けていった。

 乾いた砂が水を吸うように、ラプンツェルは外界へと溶け込んでいったのだ。



 当然、生きていくために必要不可欠なものであり、時にはこれが原因で争いや殺人ごとまで起こる「お金」も、有名人となったラプンツェルの手元にも、ジャブジャブと音を立てながら打ち寄せてきた。

 ラプンツェルを自身の飯の種としてたグリムンであったが、お金のことに関しては綺麗な性分であるらしく、儲けを独り占めすることもなく、ラプンツェルの取り分はラプンツェルに渡してくれていた。


 グリムンが作ってくれたラプンツェル名義の銀行口座に一定のお金が貯まったラプンツェルが最初にしたこと。

 それは、自分が大好きな”かぐや姫”とグリムンの忘れられない女であるらしい”サダコ”が誕生した国へと、グリムンとともに旅行に行くことではなかった。

 世間の新たな話題を提供することとなる 『ラプンツェル、初めての飛行機&初めての海外旅行』は後回しだ。


 ラプンツェルは、魔法使い・ゴーテルが刑期を終えて戻ってきた時に”一緒に暮らす”ための家を購入したのだ。

 ビジネスパートナーであるグリムンと一緒に暮らしていた(!)ラプンツェル。

 その言葉通り、グリムンとは肉体関係など一切なく一緒に暮らしていただけのラプンツェルであるが、いずれ養母ゴーテルと、ゴーテルと一緒に暮らすことを許してくれる”王子様”と幸せに暮らすのが夢であった。


 ゴーテルの元へとラプンツェルが面会に行った時、そのことを聞いたゴーテルは目頭を押さえ、ボロボロと泣いていた。

 ゴーテルはラプンツェルの記憶の中のゴーテルより、さらに小さく弱弱しくなっているようであった。


「すまなかったねえ、私の帰る場所まで、被害者のあんたが用意してくれるなんて……でも、あんたの王子様が見つかった時、私みたいな前科者のババアと一緒に暮らすのが嫌だって言ったら、もう老い先短い私のことなんて捨ててくれていいんだよ」


「おば様と暮らすことを嫌がる王子様を私が選んだりなんてしないわ。もし、嫌だっていったら、その時点でその人は私の王子様じゃなくなるもの」


 綺麗にヘアスタイリングされ、自分の顔の美点も生かしたメイクをバッチリ決めたラプンツェルの顔を見たゴーテルは目を細める。


「あんた、本当に綺麗になったし、今は自信に満ち溢れてるね……あの”整形男”に言われたことで、私は覚めまいとしていた長い夢から覚めたんだ。あんたたちを解放しようって……私があんたから奪った18年間はもう戻らない。私の手元に置いておくとしても、せめて……学校には行かせてやるべきだったって今でも思うよ」


 そう言ったゴーテルは、またワッと泣き出した。

  

「そんなに泣かないで、おば様。私、塔の中で過ごした18年間、とっても幸せだったわ。おば様からの愛を感じていたもの……それに、私はこれから幾らでも新しいことを学んでいけるわよ。いろんな世界を見て、いろんなことを感じることができるわよ。あ、そうだ! おば様、私、今度、グリムンと一緒に『竹取物語』が誕生した国に飛行機に乗っていくのよ! 宿の部屋はグリムンとは別々だから、心配しないでね。おば様へのお土産には『貞子人形』を買ってくるわね」


 そう言ってラプンツェルは微笑んだ。

 初めての飛行機&初めての海外旅行、そして帰国後は、育ての親であるゴーテルと一緒に暮らすことに首を縦へと振ってくれる王子様を探す”婚活”にと、この時のラプンツェルの心は未来への希望に満ち溢れていた。


 だが、そんなラプンツェルの顔を見たゴーテルが、声を落として言う。


「けれども、気を付けるんだよ、ラプンツェル……初めての旅行についてだけじゃない。有名人となってしまったあんたに擦り寄ってくる者たちは、これからも増えてくるだろう。”甘い言葉であんたに寄生し、骨の髄まで喰いものにしよう”とするハイエナのごとき輩だってね。その輩が単独であんたに狙いを定めるならまだしも、群れとなってやってくるかもしれないんだから」



 ゴーテルの言葉をしっかりと胸に刻んだまま、ラプンツェルはグリムンとともに空へと旅立った。もちろん、飛行機に乗って。

 そして、帰国後はゴーテルをも大切にしてくれる”王子様”を探し求める”婚活”にも精力的に取り組んでいた。

 グリムンも『ラプンツェルの婚活大作戦!』という名目の元、積極的に配信し始めていた。



 しかし、そんなある日のことであった。

 有名人となったラプンツェルに狙いを定め、”寄生し、骨の髄まで喰いものにしよう”としている輩たちが群れとなり、ついにラプンツェルの目の前に現れたのだ!


 この輩たちのことを説明するには、まずラプンツェルの原点に立ち戻らなければならない。

 そう、つまり、”ラプンツェルがラプンツェルとなった根本”は、ラプンツェルの実の両親の行いであった。


 奴らは、SNSやインスタ映えなんて言葉すらなかった時代より、他人のラプンツェル畑を荒らしたうえ、窃盗までをも行っていた者たちである。

 そして、魔法使い・ゴーテルに 「損害賠償金をしっかり払うか? それとも子供を私に養女として差し出すか?」と明示されて、ためらいもせずに即決で自分の娘を差し出した者たちなのだ。

 一言で言えば、DQN。


 いや、DQNなんて言葉が生易しいほどの凄まじい者たちであった。 

 低所得、低学歴、あらゆる導火線が短くて、すぐに手や足が出る。子供は殴って蹴って言うことを聞かせろ。話し合っての解決よりも、暴力で解決だ。というか、その解決方法しか知らない。金でも、ドラッグでも、体でも、欲しいものは奪い取れ。体を売るのも、へっちゃら。他人に舐められたら負けだ。やられたら、やり返せ。やり返した相手が、半身不随になったり、時には死んじまってもしゃあねえ。

 そう、血の気が多いためか、生命力というか”繁殖能力は物凄く強い者”たち。



 ラプンツェルがグリムンとの同居を解消し、ゴーテルと暮らすために引っ越した家の玄関のチャイムが、この者たちによって鳴らされた。

 自身の生みの両親と名乗った2人と兄と姉だという者たちの声を”インターホン越しに聞いた”ラプンツェルは扉を開けた。


 扉を開ける前の彼女は、自分と血のつながった家族に会えるという喜びに満ちていた。

 けれども――


 玄関の扉をあけたラプンツェルは、「ヒイッ!」と悲鳴をあげた。

 派手なタトゥーだらけ、”マフィアやギャングのごとき恐ろしい風貌”の大柄な男女が10人も立っていたのだから!



「やっと家を見つけた。会いたかったわ、ラプンツェル。あなたのママよ」

 ラプンツェルをガバッと抱きしめる母親。

 彼女の着古したノースリーブワンピースの中にある、ノーブラのうえしなびた乳房の感触が、ラプンツェルに伝わってきた。


「パパも会いたかったぞ、ラプンツェル。すっかり有名になって、お前、”かなり稼いでいる”みたいだな。お邪魔するぞ」

 そう言った父親は、ラプンツェルが中に入ってもいいと言っていないのに、タンクトップの中のたるんだ腹をボリボリと掻きながらズカズカと家の中に踏み込んできた。

 その父親に、ラプンツェルの兄や姉たちもズカズカと続く。


 煙草を吸わないラプンツェルの家の中に、煙草を吸いながら踏み込んできた兄もいれば、踏み込んでくる前に手にあった酒の空瓶を庭にポイッと投げ捨てた兄もいた。

 姉の1人などは玄関に飾っている花瓶を見て、「これ素敵ねえ、ねえ、私もこんなの欲しいなぁ。ううん、欲しいんだけど」とラプンツェルに”分かってるでしょ、これ頂戴”と言わんばかりの視線を向けた。



 ラプンツェルを抱きしめたままのママが言う。

「どうしたの? ラプンツェル、パパとママ、兄さんや姉さんたちに会えてうれしくないの? ま、これで全員じゃないけどね。まだ刑務所に入ったままの子も2人ばかりいるけど。それより、折角の再会を祝ってパーティーしましょうよ。”スシ”っていう料理が美味しいらしいじゃない? でも、ママたち一度も食べたことないのよね。パーティー用の料理に追加して、”スシ”もデリバリーで頼んでくれるとママたちとってもうれしいんだけねぇ」



 あまりの迫力と恐怖に気圧されてしまったラプンツェル。

 そう、家族たちと再会した当日の夜に、費用は全てラプンツェル持ちで、パーティーが夜通し繰り広げられることになった。



 酒と食べ物を片時も放さぬ両親より、ラプンツェルは自分が六男四女のうちの四女であり、末っ子でもあることを知った。

 そして、家族全員に殺人、強盗、詐欺、恐喝、傷害、強姦、麻薬取引などの何らかの前科があること。前科のない者などいないこと。


 そして――

 ラプンツェルファミリーの酔っ払いぶりならび暴れっぷりは凄まじいものであった。

 好きなだけ飲み食いし、足りなければラプンツェルに断ることもなく、デリバリーへと電話する。酒に酔って兄弟同士で殴り合いを始めたり、カーペットに嘔吐したり、小便だってトイレではなく庭で行う。

 姉の1人なんて、ブラジャーに隠していたドラッグを引っ張り出し「ふー、久々にキメちゃおうかな。なんだか、セックスしたくなっちゃった」なんて言い始め、ミニスカートなのに大股開き状態でソファーに寝転がった。


 ラプンツェルの家からのただごとではない騒ぎに、近隣住民の幾人かが文句を言いにやって来たも、あまりにも凶悪過ぎる面構えのラプンツェルの父と兄たちを見て、ピューン!と脱兎のごとく自分の家へと逃げ帰っていった。

 

 ラプンツェルと近隣住民の恐怖の夜がこの一夜だけで終わったなら、まだマシだった。

 けれども、そうはいかなかった。


 有名人となり稼いでいる娘or妹に寄生して、”骨の髄まで喰いものにするつもりらしい”奴らは、そのままラプンツェルの家に入り浸るようになってしまったのだから。

 

 刑期を終えたゴーテルと、そしてゴーテルと暮らすことを受け入れてくれる”まだ見ぬ王子様”と暮らすために、ラプンツェルが購入した清潔であり大切な家は、いまや”群れとなってやってきたハイエナたち”に蹂躙されてしまったのだから。


 当然、ラプンツェルの銀行残高も、「私たちはお前と血のつながった家族でしょ」「俺たちの面倒を見ろよ。家族は助け合うものだ」というハイエナたちの圧力のもと、みるみるうちに減っていっていく。

 

 こんな日々が続き、ついに胃に穴があいたラプンツェルは入院してしまった。

 「あんな人たちが私と血のつながった家族だったなんて。あの塔に帰りたい」とラプンツェルは病室で泣き続けていた。


 気の毒なラプンツェル。

 もはや、婚活どころではない。

 よって、ネットという大海から拾い上げた幾つかの声を持ってして、この物語を締めくくることとしよう。




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 ドス黒なずみ @dosuguronazumi


 ラプンツェルハウスの近隣の者なんだけど、もう超迷惑! 下品にもほどがある!

 普通に道に唾吐くし、所かまわず立ちションするし、他人の花壇に煙草のポイ捨てするし、大音量でほぼ毎日夜中まで騒いでいるし!

 ラプンツェル姉の1人なんて、路上で客引きしようとしてたっぽい時もあったし!



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 童話5本立ては @douwa5hondateha


 よくよく考えてみると、純朴でスれていない風のラプンツェルたんだって、あの凄まじい家族の元で育ったなら、何でもありの超絶DQN娘になってたかもしれないってコトかorz



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 今回でいったん @konkaideittan


 私が思いますに、ゴーテル受刑者は考え方と育児法があまりにも極端すぎただけで、ラプンツェルの家族に比べたら、まだわずかにマシかと。

 


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 幕引きです @makuhikidesu


 噂に聞いたけど、ラプンツェルの兄の何人かがグリムンのところに挨拶に行ったらしいじゃんwww

「てめえ、俺たちの妹とヤッただろ、その分の金を払え」ってwww

 タトゥーだらけで筋肉ムッキムキのラプンツェル兄に、胸倉を掴まれて吊るし上げられて、足をバタバタさせているグリムンを見た人がいるとかいないとかwww

 


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 読んでいただき @yondeitadaki


 空港で一緒にいるグリムンとラプンツェルを見たことある。グリムンは想像していたより背が低くてガリヒョロだった。”永遠の中学生男子”みたいな体型。まだラプンツェルの方が、女ながらに体格良かったぐらい。別にデブってわけじゃなかったけどね。

 あ、もしかして、わりと長身で骨組みがしっかりしてるラプンツェルの体型は、やたら血の気が多くて攻撃力も高いDQN家族たちの血によるものなのかも。



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 ました方々 @masitakatagata


 もうやめましょう。ラプンツェルさんが可哀想じゃないですか? グリムンさんとのコンビも、つい先日、解消しちゃったし。

 私は正直、ラプンツェルさんは、容姿や一芸に秀でている人ではなかったと思います。ですが、多才なグリムンさんに出会えたという運によって一躍セレブリティの仲間入りという”ドリーム”を私たちに見せてくれていたのに。



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 本当にありがとう @hontouniarigatou


 『ラプンツェルの婚活大作戦!』私楽しみでチャンネル登録までしてたのに、打ち切りなんてヒドス(´;ω;`) でも、今まで通りに婚活続けていくの考えちゃうよね。彼女が運よく有名になっちゃって、一般人の女の子を収入を遥かに上回るお金を手に入れたのが、血のつながった家族にたかられるという災いの元になっちゃった。



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 ございました @gozaimashita


 マジでキッツいわ(笑) >ラプンツェルの家族たち

 たちが悪すぎるだろ。ラプンツェルの王子様になろうものなら、あの家族が1ダースまるまるついてくるんだぜ。いや、DQNほど繁殖能力高いから、そのうち1ダース以上になるだろ(笑)

 ハードモード過ぎる修羅の道に、誰が好き好んで足を踏み入れるかっての。

 絶対に尻の毛までブチブチむしられたうえ、最終的には掘られそう(笑)



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 これからますます暑くなりますが  @korekaramasumasuatsukunarimasuga


 親は親、子供は子供、兄姉は兄姉、妹は妹、それぞれ別の人間っていう綺麗ごとを口で言っても、そう見てくれない人の方が社会では多いのです。

 家族たちの中に1人だけ、手の付けられないアウトローがいるならまだしも、ラプンツェル女史の場合は見事に、彼女以外の全員が手の付けられないアウトローですから……

 彼女の婚活にも翳りがさしているというよりも、もはや彼女のバックは真っ黒、ドス黒な現代版『ラプンツェル』ですね。



※※※※※※※※※※※※※※※ 



 夏バテにはお気をつけてくださいませ @natsubatenihaokiwotsuketekudasaimase


 全てを受け入れてくれる王子様が見つかるといいね。

 ラプンツェルの婚活にどうか幸あれ!



※※※※※※※※※※※※※※※ 




―――fin―――

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