まどろみ



 私は行き場を無くして立ちつくした。扉が少し空いていたので、アイの部屋の様子を伺う。


「あら、まだ掃除終わってないのよ」


 アイの母親が振り向いて言う。しかしそこは何十年も家事を預かるプロ。あんな少しの時間なのに、もうほとんどの片付けは終わっていた。


「あなたは濡れなかったのね、良かった。大人しくしてくれるなら、部屋の中で待っていてもいいわ」


 私はありがたく中に入り、ベッドの上でくつろがせてもらった。


 そうしているうちに、うつらうつらとして、眠り込んでしまった。


 ガサガサ。


 私は身動みじろぎをする。うたた寝をしていたようだ。どれくらいの時間がたったか分からない。もう部屋にはアイの母親の気配はない。


 ガサッ、ガササッ。


 ゆっくりと片眼を開ける。じゃあ、この音は誰がたててるんだ? 少し顔を持ち上げ、気配のある方に耳を傾ける。


 あっ……あれは……。


 目が合った。その音の主は完全に私に気づいた。すると一瞬にしてその場を立ち去ってしまった。明かりが無くて暗かったが、


 何をしていたのかはよく分からない。まあいいや。関係ない。私は再びまどろみに身を任せた――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る