名ばかりの勉強会



 小学校からの幼馴染みたちが集まっているのは一戸建てのアイの自宅、二階の勉強部屋。


 あの『事件』のあと、勉強嫌いのタイチの成績が破滅的に落ち込んでいるのを心配したマリアが急遽、補習を提案し皆をここに召集したのだった。


 私はそんな暇ではないし、嫌だとアイに伝えたのだが、お目付け役にと言われ、強引にその場に座らされていた。


 だがすぐに後悔した。こいつら・・・・には本当にイライラさせられる。


 まず最初に、こらえ性のないタイチ元引きこもりが遊び出した。勉強した時間は、わずか10分だけだ。それも最初の5分は、ひたすらシャーペンの芯を補給していたのみである。


 気がつけば真面目に勉強しているのは、タイチのサッカーチーム仲間の大人しいトシカズと、とにかく真面目で年上のお姉さんのようなマリアの二人のみ。


 もうひとり、この部屋の主人のアイはというと――私はさらに呆れた顔で部屋の奥の方を見た。


 そこにはベッドにうつ伏せになり、足を前後にパタパタしてくつろぐ、少女の姿があった。


 アイは頬杖をついて、読書を楽しんでいた。


 たったいま読み終わったばかりのページをめくり、転がったスナック菓子の袋から新しいスティックを取り出す。


「ぷっ……ぷぷ……キャハハハハハ!!」


 いきなり甲高い笑い声が響いた。ピンクのシーツを掌でバンバン叩き、ケラケラと笑うアイ。スカートがめくれそうになるのも気にしない。その姿は良く言えば天真爛漫らんまん、悪く言えばお子ちゃまだった。


「マジ受ける~警察間抜けすぎ! この主人公の泥棒さん、イケメンで素敵!」


「もう! アイ、せめて邪魔しないで!」


 マリアが母親のように厳しく伝えるが、それも効き目がない。


「や、やべえ……最初から鬼みたいな配役の悪さ……呪いだ、イチヤの呪いだ!」


「カードのせいにするなよな。今回配ったのはタイチだぞ」


「わかってるよ! うるさいな! くっそー何かこの部屋、暑くなってきたぞ! 窓開けるぞ、窓!」


「わ、わ、これどーなっちゃうの? 私の泥棒さま!! ちょっとドキドキ!!」


 みな勝手に喋っていて、見事なカオス状態。このまま勉強が進む雰囲気なんて、これっぽっちもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る