第10話 乱入者
「早く、こっち来て! ユウキ!」
「早く、こっち来い! ユウキ!」
神崎さんとおっさんが同時に僕を呼ぶ!
フテージ四、火山ゾーンでの戦い。
火龍アグニールは只のボスじゃない、領域守護者、どっかの王様気取りの豚ボスと違って課金者でも苦労する強敵だ。
もちろん、領域ボスは普通の呼び笛じゃ登場しない、高価な金の呼び笛と、その使用者は、ここより上位ステージの攻略者じゃないといけない。
ギルドランキング第三位、【
瀕死の領域守護者のアグニールは、夢ちゃんと神崎さんに首根っこを押さえられ地に伏す形でうめき声を上げている。
驚いたのはおっさんだ。
小さな女の子の姿、職業は夢ちゃんと同じ
「もうダメ、耐えらない! ユウキ、早く来て!」
小さな女の子が必死に叫ぶセリフは心にくるものがあるが、中身はおっさんだ。
けど、やっぱり先に行くならこっちだろう。
フレンドリーファイアーの設定にも慣れてきたので、スキルを発動させる。
「スラッシュ!」
見事、レッドドラゴンに命中してトドメを刺した。
もちろん、おっさんには当てていない。
その後、火龍アグニールにも放つが、一発じゃ仕留められない。
「うわっ、ださっ!」
雑な神崎さんの言葉……。
結局、三発放ってアグニールを仕留める事ができた。
「なんであっちが先なのよ! ユウキのロリコン!」
戦いの後、神崎さんは、おかんむりの様子。
テテテッとちんまりした女の子が駆け寄って来た。
「ふふふ、ユウキと俺は絆が深いのよ!」
おっさん……、いろいろキモいぞ!
神崎さんがムムムと震える。
また、あの口喧嘩の再来か……。
「次、呼ぶわよ!」
ギロリと夢ちゃんが号令をかけた。
「返事は!」
「はい!」
みんな同時にチャットした。
しかし、休憩が欲しいな……、そろそろ日が変わる時間。
マジで徹夜する気か……、やれやれ……。
次を呼ぶとはいえ、領域守護者は、ステージ三の豚キングと違い、バンバンとはいかない。
十分程度の余裕はあるとの事。
「プーさん、何してるの?」
微動だにしなくなったおっさんに個人チャットをしてみた。
「ガチャ回してるのよ! 見てなさい、あの女!」
おっさんは興奮が収まらないようで、言葉遣いがまるで女の子だ。
可愛いが好きらしいから、リアは案外ゆめちゃんと同じかも……。
でも、僕は別にそれでも構わない。実際、外見なんて大した問題では無いのたがら……。
神崎さんも動きがない、こっちも回してるのか、この課金者共め!
「そろそろよ!」
ゆめちゃんのシャウトでスマホがバイブする。
画面が歪む、領域守護者アグニールが二体のレッドドラゴンを引き連れて現れた。
戦いの始まりだ。
「見てなさい! 私が一撃で仕留めてあげる! 火力の違いを思い知りなさい!」
知らねえよ! てか、仕留めんなよ、目的が違うだろ!
神崎さんが杖をぶん回しながら突っ込んでいく。
魔法を使う気はさらさら無いようだ。
「何よ、あたしの【天帝のメイス】でぶっ潰すんだからね!」
新しい武器を手に入れたんですね! 良かったですね!
聖職者にあるまじき「ぶっ潰す」発言は許せるとして、あんた、もう完全に女子だよ!
「みんな、元気ね、お姉さんは楽しいわ」
ああ、あんたはおネェさんだよ、正真正銘の!
「ユウキくんも、早く行きなさい、獲物取られちゃうわよ!」
ゆめちゃんは、僕に先を譲ろうとする。
本当に良いんですね!
課金者と僕を一緒にしないで下さい!
あんなの相手してたら、僕なんか、一撃で逝っちゃいますよ!!
さらに画面が歪む!
「あらあら、無粋な人もいたもんね」
ゆめちゃんは嬉しそうに呟いた。
乱入者の登場だ!
上位ギルドは何処もPK上等を掲げている。
彼らは対人こそが、このゲームの真髄だと信じてるからだ。
そんなギルドの戦いに乱入だなんて可哀想な奴……。
「みかんさーーん、助太刀に来ましたよ!」
乱入者は登場するなり大声で叫ぶ。
「みかんちゃん、知り合いなの?」
ギルマスのゆめちゃんが神崎さんに尋ねる。
「知らない人です! 殺しちゃって下さい!」
火龍アグニールを杖で殴りながら、神崎さんはチャットした。
器用だな、神崎さん。
「ひどいな、みかんさん、放課後サボった事なら気にしなくて良いよ」
乱入者の名前はジーグフリード、クラスメイトで茶髪の王子様、西園寺くんだった。
「ユウキくん、そうなの?」
「知り合いかな……」
「違うわよ!」
領域守護者アグニールに最初の一撃を入れた神崎さんは見事にヘイトを稼いで、今は、アグニールとレッドドラゴンの二体相手に杖で奮闘している。
凄いぞ、神崎さん。
ちんまい女の子キャラのおっさんもレッドドラゴンと絶賛殴り合い中だ。
こっちもガンバレ!
「やだ、男を連れ込んで、破廉恥な人!」
おっさん、破廉恥なんて言葉、十代女子はあまり使わないぞ!
「何よ、あんた可愛くない!」
「あんたの男でしょ何とかしなさいよ!」
「私のじゃ無いわよ!」
あんたら器用だな、よく、戦いなから、そんだけチャットが打てるもんだ、凄えよ!
「さやか! 今、そっち行くからな」
「リアをチャットするな!」
神崎さんはレッドドラゴンのブレスを間一髪でかわした。
「そうだぞ! 西園寺!」
どさくさに紛れて、僕も、ジーグフリードのリア名を叫んだ!
「悪かったみかん、又、来るから待っててくれ!」
「待たないわよ!」
ジーグフリードはブレスに巻き込まれてHPかゼロになり戦場から消えた。
あっけないな、何しに来たんだよあいつ!
多分、あいつは、しばらく、このステージには来れない。
今日始めたばかりのあいつは、まだ最初のステージも攻略していないはずだからだ。
しかし、どうやってここまで来たんだ。
ここは、ステージ四だぞ!
フィールドの雑魚もあいつは倒せないはずだ!
まあ、僕も倒せないけとね……、
「早く来てユウキ!」
神崎さんとおっさんが同時に僕を呼ぶ。
またかよ!
てか、これじゃ、僕、完全に寄生じゃん!
こうして、僕の修行と神崎さんとおっさんの意地の張り合いは明け方まで続いた。
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