生き残り、勝ち




「あ、あれ……? そういえば、ゾンビはどうなったんですか?」


 こんな、ゆっくりしている場合なのか。

 僕は良い雰囲気なのを壊して、辺りを見回した。


「ああ? そんなの全部、倒しておいたぞ」


「え、この短時間に⁉」


 確かに周りには立っているゾンビ一匹もいなかったけど、まさか全部倒しているとは思えなかった。

 しかし、みんな否定しないから、本当のことなのだろう。


「太郎君がピンチになった途端に、みんな凄かったのよ。見せてあげたかったぐらい」


「ああ、でも、何となく……想像が出来ます。うん」


 僕のことだけがきっかけになったかどうかは分からないけど、無双している様子は容易に頭に思い浮かんだ。

 乾いた笑いを口にして、僕は警戒心を解いた。


 今のところは、ゾンビの姿は見えない。

 僕達は、勝ったのだ。


『な、な、な』


 ゾンビを倒すなんて、思わなかったのだろう。

 首相は驚いた声を出して、何も言えずにいた。


「おい! ぜーんぶ倒してやったんだから、その瓶を渡してもらえるんだろうなあ!」


 また忘れ去られていた首相に対し、剛埼さんは叫んだ。

 拡声器は無くても、その声は届く。


『そ、そんな約束は知らん! お前達が死ぬまでは、ばらまくわけないだろう! さっさと死ね!』


 まあ、そう簡単に渡してくれるとは思わなかったが。

 黒幕なはずなのだけど、そうは見えない。

 やったことは凄まじい、しかしやった人はそうでもないということか。


『俺はこの世界をより良いものにするんだ! お前達みたいなのは、俺の世界にふさわしくないんだよ!』


 なおも騒ぎ続けている首相。

 彼は気がついていないが、遠くから見ている僕達は、とあることに気がついていた。


 彼に向かって、ゆっくりと近づく影を。


『お前達のせいで、計画が台無しだ! なんてことをしてくれたんだ!』


 ゆっくり、でも確実に近づいている。

 しかし、全く気が付いていない。


『まあ、他にもゾンビは残っているからな! そいつらに、お前達を食わせてやるからな!』


 そして、とうとう真横まで来た。

 そこでようやく、首相はゾンビが近くにいることに気が付く。

 もう、手遅れだが。


『う、うわっ! 何だこいつ! 止めろ! 俺はこの国の首相だぞ! 何をするんだっ! ひいっ! 誰か助けっ……いやだあああああああああ!』


 黒幕が舞台から降りるのは、あっという間だった。

 首相は自らが作ったゾンビによって、食われて死んだ。

 さすがに食べられている様子を見るのは初めてだったので、痛ましさから目をそらす。


 しかし、そのおかげでというのもなんだが、首相の手からは瓶が離れていき、地面で割れた。

 少し疑っていた瓶の効果だったけど、落ちた瞬間、ゾンビの姿が朽ち果てたのを見れば、信じる以外なかった。


 こうして、この世界からゾンビの存在は消えた。



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