それから……



 ゾンビは消えた。

 僕達は、勝ったのだ。


 あっけない終幕だったけど、終わりなんてそんなものだろう。

 それを理解した僕達は、顔を見合わせた。


「や、やったああああああああああああああ!」


 そして、ハイタッチをして喜びを表現する。

 僕も、剛埼さんも、美香さんも、三鷹さんも、母も、姉も、みんなみんな喜んだ。


「みんな生きてる! 良かった! 良かったあ!」


 僕は喜びをかみしめ、涙ぐむ。

 全員が生きて、こんな状況も終わって。

 喜ぶ以外、することなんてない。


 ひとしきり喜ぶと、段々と落ち着いていく。


「……終わった、なあ。終わった終わった」


 しみじみ、噛みしめるように剛埼さんは喜ぶ。

 そして、ゆっくりと母の肩を引き寄せた。

 母もそれに抵抗することなく、そっと寄り添った。


 ……ん?


「変態君、いや太郎? だったかあ。これから、よろしくなあ」


「エ。イヤ、アノオ……オトウサン?」


「おう」


 いつの間に、そういうことになっていたのか。

 頼もしい父が増えたのは、喜ばしい。

 しかし、義理の父親。


 慣れるまでに、だいぶ時間がかかりそうだ。

 微妙な気持ちになりながら、それでも祝福する気持ちはきちんとあった。

 母の面倒を見れるのは、剛埼さんぐらいの人じゃないと無理だ。


「おっほー! 新しいお父さんが出来た! いいねいいね! 私達も、結婚しちゃう? 三鷹君?」


「……それは、面白い考えですね」


「ちょ、ちょっと待ったあ!」


 母のことは喜べるが、さすがに姉と三鷹さんは駄目だ。

 全くそういう雰囲気が無かったのに、いつからそうなった。


 いや、きっと姉が無理やりしたことなのだろう。

 僕は三鷹さんに、無理はしなくていいと言おうとしたが、彼が嬉しそうなので止めた。


 もしかしたら、そのうち義理の兄も増えるかもしれないなあ。

 もはや、現実逃避をするしかなかった。


「太郎君」


「どうしたの? 美香さん」


「これからもよろしくね。……彼女として」


「……うん、よろしく」


 微妙な表情で笑う僕に、美香さんがそっと寄り添ってくる。

 僕はその体を引き寄せて、ほっと息を吐いた。



 もういいや。

 こんなめちゃくちゃな家族がいても面白いじゃないか。

 ゾンビの世界でも生き残れたメンバーだ。

 これからどんなことが起きても、絶対に大丈夫だ。


 根拠は無いけど、自信はあった。


「よおし、それじゃあ行くかあ!」


「え? どこにですか?」


 剛埼さんは、銃を手に取って不敵に笑った。


「こんな風にした原因は、まだ他にもいるだろう? ちょっとばかし、お仕置きしてやらないとなあ」


 他の人達も銃を手に持ち、良い笑みを浮かべる。

 僕も銃を取り出しながら、顔も知らない相手に対して拝んでおいた。


 これから彼等を待ち受けているのは、地獄だ。

 同情はするが、慈悲は無い。

 悪いのは、自分達なのだから。



 そして僕達は、車に乗り込み、最後の仕上げをしに行く。

 邪魔をするものは、誰もいなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る