そして、生き残り




 剛埼さんがくれたマシンガンは、とても役立った。

 初めて撃ったのだが、なんとか使いこなすことが出来た。


 そのおかげで、炎の中に少ししかいなかったゾンビは、すぐに殲滅した。

 炎の勢いも弱まってきて、剛埼さん達の姿が見えてくる。

 その姿を見て、僕は安堵のため息を吐く。


 良かった。

 僕は生き残ることが出来たんだ。

 生きているという実感がわいてきて、足から力が抜けてしまった。


「だ、大丈夫⁉ 太郎君!」


 地面に座り込んでしまった僕の元に、美香さんが必死の形相で走ってくる。

 そして体当たりほどの勢いで、僕に抱き着いてきた。


「うぐっ!」


「あっ、ごめんなさい! 大丈夫だった?」


 腹の辺りに打撃があり、僕はうめき声を出す。

 心配してくれたのだから、怒るわけにもいかない。

 僕は涙目で見てきた彼女の頭を、優しく撫でた。


「心配してくれて、ありがとう。おかげで、何とか頑張れたよ」


「あ……う、ああ……はい」


 安心感から、顔もゆるゆるだった。

 どんな顔をしているか、自分でも分からない。

 間近で見ていた美香さんの顔が、真っ赤に染まったから、良い表情では無かったのだろう。


「変態君。よく頑張ったなあ」


 そんなやり取りをしていると、剛埼さんも近づいてきて、今度は僕の頭を撫でてくれる。

 何だかそれが、父親にされているみたいで。


「……父さん……?」


「ははっ。こんなでかいガキはいねえなあ」


「あっ。そうですよねっ。ごめんなさいっ。つい、無意識に」


 無意識に、父と言ってしまって、僕は慌てて弁解した。


「タローちゃん、無事で良かったよ!」


「愚息にしては、よく頑張った方ですね」


「田中さん、姿は見えませんでしたけど、撃っている音は聞こえました。とても凄かったです」


 恥ずかしくて顔をうつむかせた僕に対し、姉や母や三鷹さんまで声をかけてくれる。

 家族が褒めてくれたことなんて、あまりないから、嬉しくてまた顔が緩んでしまった。


「太郎君……」


 下から美香さんの声がした。

 そして、唇に柔らかい感触。


「……が、頑張ったご褒美だよ」


「え、え、えー⁉」


 顔の赤い美香さん。

 僕は遅れて、キスをされたのだと理解する。


 ひゅーひゅーと剛埼さんがはやし立てるように、口笛を吹いた。


「あらあらー! こーんな可愛い妹が、本当に出来るのー? きゃー!」


「華子。気が早いですよ」


 姉も母も、わいわいと周りで勝手なことを言ってくる。


「ちょ、姉さん! 母さん! 美香さんが困るだろう!」


「太郎君。私は困らないからいいよ」


「え、え、えー!」


 もう一度、柔らかい感覚。


 僕は突然の事態にパニックになって、思考回路を停止させた。



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