絶体絶命のピンチ




 炎に囲まれ逃げることも出来ず、ゾンビが近づいてくる状況。

 誰の助けも期待できなくて、僕一人で何とかするしかない。


「おおい! 大丈夫かあ!」


 炎の向こう側から、剛埼さんの声が聞こえてくる。


「はい! な、何とか! 今のところは生きています!」


 僕は心配をかけたくなくて、無事だと叫んで返した。

 しかしそのせいで、僕に気が付いていなかったゾンビも、こちらを見てくる。


 やばい、気が付かれてしまったか。

 僕は舌打ちをして、銃を向けようとした。

 そう思ったのだが、爆発のせいで持っていた銃を手放してしまったみたいだ。

 辺りを探してみても、どこにもない。


 これは、さすがにまずいのではないか。

 僕はもう一度舌打ちをして、何か武器になりそうなものは無いか、必死に探した。

 しかし何も見つからなかった。


 その間にも、ゾンビはこちらに向かってきている。

 まさか、僕はこんなところで死ぬのか。

 死というものを間近に感じて、一気に背筋が寒くなる。


 せっかく仲間も出来て、家族とも再会できたのに。

 こんなところで、一人で死ぬ。

 モブだった僕には、似合いの死だと言われているみたいだ。


「は、はは。ははは、嘘……だろ」


 僕は膝をついて、絶望を感じていた。

 涙で視界もぼやけてくる。


「死にたく……ないなあ」


 これからの死を受け入れざるを得なくて、僕は目を閉じた。





「太郎君! すぐそっちに行くから、頑張って!」


 その時、美香さんの声が聞こえてきた。

 心底心配をしている声に、僕は目を開ける。


 そうだ。

 何を弱気になっているのだ。

 こんなところで、死んでいる場合じゃない。

 絶対に助かるんだ。


 僕は足に力を開けて、ゆっくりと立ち上がる。

 そうするとちょうど、炎の向こう側から何かが飛んできた。

 慌てて受け取ると、それは剛埼さんが持っていたマシンガンだった。


「変態君よお! それを使って、さっさと倒してこい!」


 頼もしい言葉に、僕は腕の中にある銃をそっと抱きしめた。


 大丈夫。大丈夫だ。

 僕は、絶対に死なない。



 燃え盛る炎の中で、両手で抱えるほどの銃を持って立っている僕。


 周りには、今までであれば関わりあわなかっただろう、カースト上位の人達が僕に向かって叫んできた。


「うてえええええええええ!」


「はやく!」


「やっちまえ!」


 三鷹さん、美香さん、剛埼さん。

 みんなが、僕に向かって心配の言葉を投げかけている。


 その声を耳にしながら、冷静な頭で辺りを見回す。

 僕の方に向かって、勢いよく走ってくるゾンビの群れ。


 体から、血や内臓や肉が落ちていき、地面を汚している。

 見ていてあまり気持ちのいいものでは無いが、目をそらすことは無かった。



 少し前の僕は、一生、面白みのない人生を送ると思っていた。

 カースト最下位のまま、死んでいくのだと。


 しかし、今は違う。

 僕は銃を構えて、ゾンビの一人に狙いをつけた。



 絶対に、生き残ってやる。

 覚悟を決めた僕はもう、前の僕とは違っていた。



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