ゾンビと爆発と



 僕の記念すべき初射撃は、狙い通りにはいかなかった。

 それでもゾンビに当たったのだから、及第点ということにしておこう。

 初めてゾンビを殺すことが出来て、僕のテンションはうなぎのぼりだった。


 一発当てることが出来れば、自信もついて更に弾を撃っていく。

 たくさん的があるから、どんどん当たる。

 不謹慎かもしれないけど、それがとても楽しかった。


 僕でさえそうなのだから、他の人は更にテンションが上がっていた。


「ひゃっはああああああああああああ!!」


 特に剛埼さんが一番すごくて、もはや悪役にしか見えない。

 いや、仲間だからこそ頼もしいのだが。

 叫びながら、マシンガンを連発。

 僕にはまだ、到底達しえない領域である。


「たーのしいねええええええ! 銃を撃つのって!」


「華子、良いわね。その調子で頑張りなさい」


 そして母も姉も、ものすごく射撃が上手い。

 撃つ弾数は決して多くは無いのだけれど、百発百中。

 どこでそんなスキルを培ってきたのか、もしかして僕の知らない間に練習でもしていたのか。


 僕は避けるように、そっと美香さんの方に近づいた。

 そうすれば安心して、銃を持つ手の力も抜けてくる。


「いい調子ね。太郎君。上手じゃない」


「美香さんこそ、凄いね」


 僕の存在に気が付いた美香さんは、こちらに向けて笑みを浮かべてきた。

 何だかいい雰囲気。

 顔が緩むのを自覚しながら、二人でゾンビを倒していく。


 雰囲気はデートみたいだ。

 やっていることは、全く何のムードもないけど。

 しかし、どんどん僕達の間に漂う空気は甘いものに変わっていった。


 そういえば、剛埼さんはいつ着ぐるみを脱いだのだろう。

 可愛らしい着ぐるみから、いつものミリタリー感満載の洋服。

 その方が動きやすいのは、当たり前のことだけど。


 いまだにセーラー服を着たままの僕は、三鷹さんが何をしているのか視線を移す。

 彼は一人で黙々と、ゾンビを殺している。

 剛埼さんラブしか伝わってこなかったから、その姿はとても凛々しかった。

 今も眼鏡をかけていないけど、伊達眼鏡だったのか。


 全員が全員、的確にゾンビを殺していくおかげで、数はどんどん減っていった。

 その状況は、首相の予想していたものではなかったみたいだ。


『な、何だ。お前達。化け物かよ!』


 驚いた声を出して、彼は手に持っていた何かをこちらに向かって投げてきた。

 丸くて、小さくて、真っ黒な塊。

 それは、真っすぐに飛んでくる。


「っち! よけろお!」


 飛んでくる塊を見た剛埼さんは、舌打ちをして叫んだ。

 突然のことに、僕達は散り散りに逃げる。


 その黒い塊は、放物線を描きゆっくりと地面についた。



 瞬間、視界が黒く染まる。

 衝撃を感じ、反射的に目を閉ざした。

 それから目を開けた時には、赤い世界が広がっていた。


 周りを炎が囲み、僕の周りには誰もいなかった。

 いや、ゾンビはいた。

 僕は炎の中に取り残されて、ゾンビが襲おうと近づいてきている。



 投げてきたものは爆弾で、僕は炎に囲まれてしまったということか。

 状況は理解した。

 しかし理解したところで、ピンチだというのは変わらないというわけだ。



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