そしてゾンビが



『女が二人増えたところで、何になる!! 俺を無視した罰だ!! さっさと死にやがれええええええええ!!』


 無視をしすぎたのは、さすがに駄目だったみたいだ。

 子供が地団太を踏むように、わめき散らして、そして何かのスイッチを押した。


 そうすると、途端に地面が揺れだす。

 立てないほどでは無いが、振動を感じる。


 何のスイッチだったかなんて、予想するまでもない。

 うめき声が聞こえてきた。

 まだ生きている僕達を目指して、新鮮な肉を求めた飢えたゾンビ達が走ってきているのだ。



 さすがに落ち着いて話をしている場合じゃないと、僕は和やかに話している剛埼さんと母の間に入った。


「剛埼さん、母さん、ゾンビ来ている。ゾンビ」


「あら」


「おお、分かった分かった」


 思いたくは無かったが、どことなく良い雰囲気である。

 仲間としては心強いけど、義理の父親になるのは、少し待ってほしい。

 邪魔をするように、剛埼さんの方を向いて注意をゾンビに向けさせる。


 話をしていた二人は、ゾンビに気が付いて話を止めた。

 そうしている間にも、ゾンビ達の姿が見えてくる。

 色々なところから集めて来たから、その数は今までの比ではない。


「凄い。……あんなに、たくさん……」


「予想以上、ですね」


「……はい……」


 美香さんと三鷹さんと、僕は、数の多さに圧倒される。

 それは思っていた以上、しかしこれに勝たなければ未来はない。


 それぞれ銃を手に持ち、小さく息を吐く。

 これからは本気の戦いだ。


「いいねえいいねえいいねええええええ! 楽しくなってきたじゃないかあ!」


「あはははは! おじさん、面白い人だねえ! 私も楽しくなってきたよ!」


「華子、少し落ち着きなさい。あれを倒せばいいんでしょ。さっさと倒して、ゆっくりと休みたいわ」


 しかし三人の人物がいるおかげで、頼もしいのも確かだった。

 僕の記憶の中では、母も姉も銃を撃ったことは無いはずなんだけど。


 剛埼さんが渡した銃を持つ姿が、見事に様になっている。

 明らかに強い。僕と血がつながっているとは、とても思えない。


 この三人がいれば、どんなピンチだって脱することが出来る。

 僕の存在は必要なのかと、不安になってきた。


『ははは! みんな死んでしまええええええええ!』


 向かってくるゾンビの群れ。

 みんなは銃の標準を、それぞれの獲物にあわせる。

 この世界になってから、初めて銃を撃つ。


 僕は深く息を吐いて、引き金に指をかけた。

 もう一度、息を吐く。


 最初に剛埼さんが撃ち、それを合図に次々と撃っていく。

 慌てて僕も、引き金をひいた。



 狙っていたのとは、別のゾンビに当たった。

 たくさんゾンビがいてくれて良かったと、心から思った。


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