母と姉が加わり、紹介中
一番見られたくなかった人達に、好きで着ているわけではない女装をしているのが、バレてしまった。
今更隠したところで遅いが、何となくスカートを伸ばしてみた。
膝上のスカートは伸ばしても、伸びるわけなく。
ホックを壊してしまいそうだったので、泣く泣く諦めた。
「え、えっと……太郎君。この人達は、もしかして……」
「……姉の華子と母の桜です……」
置いてけぼりになっていた美香さんは、恐る恐るといった感じで、僕に話しかけてくる。
彼女に紹介するのは嫌だったけど、知らない人だというのも、もう遅いだろう。
ものすごく小さい声で、僕は家族の紹介をした。
「この人達が……確かに、えっと色々と強そうな人だね」
何とか、褒めてくれようとしたのだろう。
褒めているのか微妙な感じになってしまったが、気持ちはよく伝わった。
「あっらー? とっても可愛らしい子がいる! めっちゃ可愛い! なになに? タローちゃんの彼女? いやーん!」
「華子。騒ぎすぎよ。彼女が怯えているわ」
「はーい。ごめんなさい、お母さん。そこのお嬢さん、ごめんねえ! とっても可愛いから、興奮しちゃった! てへっ!」
あれが血縁者だなんて、恥ずかしすぎる。
特に可愛いものが好きな姉に、美香さんの存在が見つかってしまったのは、痛恨のミスだった。
家族だから、好きなものが似てくる。
僕が好意を抱いた美香さんを、好きにならないわけがなかった。
てへっ、と可愛らしく言っているけど、年齢を考えたら痛々しい。
口にしたら待っているのは暴力なので、思うだけにとどめておく。
「おい、タローちゃん。何考えているのかな? おねーさんに教えてくれる?」
「い、いえ。何も考えていません!」
「そう? それなら、いいけどねえ」
しかし考えているのが通じてしまったらしく、途端に低い声で脅してくる。
僕はいつもの癖で、背筋を伸ばして答えた。
そうすれば、パッと表情を戻す。
「それで? そこの人達は、太郎のお友達なのかしら?」
今まで剛埼さん達を観察していた母が、静かに尋ねてきた。
「あ、友達というか。えっと、仲間? みたいな人達です。僕を助けてくれた剛埼さんと、その後に仲間になった美香さんと、先ほど仲間になった三鷹さんです」
「あら、そう。うちの愚息を助けていただき、ありがとうございます。母の桜です」
「どうもお。剛埼だ。こちらの変態君には、いつもお世話になっております」
「あらあら、ご丁寧に。私も、こんなに変態趣味を持っているとは、知りませんでした。こちらこそ、お世話になっているみたいで」
剛埼さん達を紹介すれば、母は少し目を見開き、頭を下げた。
剛埼さんも頭を下げて、何だか保護者みたいな会話をしている。
僕は気恥ずかしくなって、どこに視線を向けていいのか分からなくなった。
母と剛埼さんは気が合うのか、和やかに話をしている。
何だ、この空間。
どんな顔を浮かべれば良いのか。
微妙な表情をしていれば、空間を壊すかのように拡声器の声が響いた。
『お前達、俺を無視するんじゃない!!』
そういえば、完全に忘れていた。
さすがに放置しすぎて、我慢できなかったようだ。
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