感動の再会……




 まっすぐに近づいてきた爆音の正体は、とうとう姿を現した。


 それは、真っ赤に染められた車だった。

 車高が低く、色々ととがっている。

 マフラーは一体何個ついているのか、とても音がうるさい。


 法定スピードを確実に超えているそれは、僕達を轢こうとしているのか。

 そんな心配をしてしまうほど、全くスピードを落とさない。

 敵では無いと勝手に思ってしまったが、もしかして勘違いだったのか。


 近づいてきた車に対して、逃げた方が良いのかと動こうとした時、ようやく甲高い音と共に車が目の前でとまった。

 横付けされたそれは、全てがスモークガラスになっていて、誰が乗っているのか分からない。

 急ブレーキをかけたからか、ゴムを焼いたような不快な臭いが辺りに立ち込める。

 僕は鼻を押さえて、中から誰が下りてくるのかを注目した。


 しばらくの間、何の動きもなく、誰も何も言わなかった。

 あんなにも騒いでいた首相も、空気を読んだのか静かにしている。



 数秒の時間が過ぎ、よくやく運転席の扉が開いた。

 中から、車と同じ真っ赤なハイヒールを履いた足が出てきて、地面を踏む。

 助手席の方の扉も開き、車のルーフを掴んだ。

 まだ手だけしか見えていないけど、真っ赤なマニキュアが毒々しい。


 赤い色が好き。

 そして二人の女性。

 車を改造して、スピードを上げて走るのが好き。

 こんな状況になっても、生き残っていられる。


 知り合い、というか親族に心当たりの人物がいる。

 しかし、今ここには絶対に来てほしくない。

 胃が痛くなるし、精神的ダメージが大きすぎる。


 僕は願った。

 全く知らない人でありますように、と。

 もう一生のお願いレベルだったのに、神はいなかった。


「あっれー? そこにいるのは、タローちゃんじゃないの。何しているの、やっほー」


「あらあら。太郎、生きているのなら、きちんと直接連絡するものでしょ」


 テンションがいつも高い姉の華子かこ

 抑揚のない声で、威圧感の高い母の桜。


 車から降りた二人は、僕に気がつくとかけていたサングラスを頭の上に乗せて、手を振ってくる。

 二人とも、まるでショッピングにでも来たかのような格好で、この場にそぐわない。


 ああ、胃が痛くなってきた。


「……というか、何その格好! もしかして女の子だったの! やばい、タローちゃんは妹だったのか!」


「……とてもよく似合っていると思うわ」


 登場の衝撃が大きすぎて、自分が今どんな格好をしているのか、すっかり忘れていた。

 よりにもよって、この二人にセーラー服を着ているのがバレてしまった。


 これは、もう黒歴史決定だ。

 一生からかわれる。


 家族の無事を確認できたというのに、全く感動的ではなかった。

 僕は目から溢れる雫を、そっと拭った。


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