首相の主張と最終決戦



 こんなにも早く、黒幕が出てきてもいいのだろうか。

 それもSPをつけずに、たった一人で。


 探す手間が省けたからいいけど、わざわざ出てきたということは、勝利を確信する何かを持っているということだ。

 遠目だから確実には言えないけど、顔が自信に満ち溢れている。

 郷埼さんの行動のせいで、多少強ばってはいるが。


『はっ!!  ここまで、わざわざ来てご苦労だったなあ!!  まあ、ここがお前達の墓場になるんだがなあ!!』


「おー、凄い悪役」


 しかし回復したようで、元気に悪役らしいセリフを言い放った。

 それらしすぎて、感動してしまう。

 思わず、拍手をしたぐらいだ。


『お前達は予想もしていなかっただろうが、ここにはゾンビを集めておいた!!  地下にある薬が欲しかったのだろうが、無理に決まっている!!』


「おー、予想通り」


 自分に酔っているところ悪いけど、予想通りだった。

 しかし僕の声は聞こえていないから、彼がそれを知ることは無い。

 もし聞こえていたとすれば、怒っていたはずだからだ。


 それにしても、ゾンビはいるのか。

 予想していたので覚悟をしていたが、本当だと分かると、恐怖がわいてくる。


『お前達が死んだら、薬をまいてやるよ!! もしも万が一にでも、無理だろうがゾンビを倒すことが出来たのなら、この薬はお前達のものだ!!』


「おお! 持っているのか。話が早い」


 しかし首相が高々と上げた手に持っている瓶を見て、恐怖の感情は消え去った。

 瓶の中には、光に反射してキラキラと輝いた青い液体が入っている。

 手のひらより少し大きいぐらいの瓶だから、中身はそこまで多くないだろう。


 そんな少ない中身をまくだけで、この国の中で増えたゾンビを消し去ることが出来るのか。

 にわかには信じがたいが、そうでなかったら困ってしまう。


『たった四人、すぐに死んで終わりだろうからなあ!! お前達は、私達の素晴らしい世界を作るために犠牲になるんだよ!! 愚民どもが!!』


 テレビで見ていた時は、もっと大人しい人かと思っていたが、テンションがふりきれたら、ここまで口が悪くなってしまうのか。


 本性をあらわにしている首相が、更に何かを言おうとしていた時、どこか遠くから爆音が聞こえてきた。

 一昔前の暴走族のような、車のマフラー確実に改造しているだろう音は、こちらの方にどんどん近づいてくる。


 僕は、何故か寒気がした。

 物凄く嫌な予感がする。


『な、何だ⁉ この音は⁉』


 首相も焦っているので、これは僕達の敵ではないようだ。

 しかし、背中に汗がたらりと垂れてくるのは、どうしてなんだろう。


「おお。良い音だねえ」


 戸惑っている僕達の中で、剛埼さんだけは音を聞いて楽しそうに笑った。



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