ゾンビが消えた



 街を歩いて気がついたのだが、人に会わないのはもちろんのこと、ゾンビ一匹ともすれ違わない。

 弾を無駄撃ちしないという点ではいいけど、なんとなく嫌な予感がしてくる。

 最初はコスプレをしている僕達、特に剛埼さんに恐れをなして、どこかに隠れていると思ったのだが、ここまで来ると違う可能性が出てくる。


「もしかしたら、私達が国会に向かうのを察知して、ゾンビを集めているのかもしれませんね」


 僕の考えを代弁してくれたのは、三鷹さんだった。

 眼鏡を外していることを忘れているのか、エアー眼鏡の位置を直す仕草を何回もすることで、緊張しているのを教えてくれる。


 やっぱり、そういうことだよなあ。

 僕はため息を吐く。


 テレビは全国放送だった。

 三鷹さんに確実に見てもらうために、それを選んだのだが、この状況を作った黒幕にも見られてしまっていたとは。


 国会に入り込んで、薬をとることでさえも難易度が高いのに、その周りにはゾンビの群れときたらハードモードじゃないか。

 武器はたくさん持っているけど、いくつあっても足りない気がしてならない。


 そんな不安が伝染して、美香さんの顔は青ざめ、三鷹さんはエアー眼鏡を直しすぎてマナーモードみたいになっている。

 かくいう僕も、手が震えてきた。


 今まではなんとか生き延びてこられたけど、この最終決戦ではどうだろう。

 僕は生きて、ゾンビを消しされるのだろうか。

 いつしかいじめっ子だった僕が、しまっておいたはずの奥底から現れだし、耳元で囁く。



 お前が、なんとかできるわけがない。

 弱虫で。

 一人じゃ何も出来なくて。

 誰の役にも立てないようなゴミが。



 その言葉は、僕の心をどんどん弱らせていく。




 無理なんじゃないか。

 弱った心のせいで、そんな言葉が口から溢れでそうになる。


 その時だった。


「それはいいねえ。最後にどかんと、でっかい花火を打ち上げられるじゃねえかあ」


 剛埼さんが心底楽しそうに、そう呟いたのは。

 そこまで大きな声ではなかったのだが、僕達の中にするりと入り込んだ。


 剛埼さんがそう言うのならば、大丈夫だ。


 そんな、全く根拠の無い自信が湧いてくる。

 僕達は今まで、色々なピンチに陥ってきたけど、それでも生き残れた。

 剛埼さん、美香さん、三鷹さん……はどうかは分からないけど、安心して背中を任せられる。


「そうですね。ゾンビをやっつけて、原因作った人達を殴り飛ばしましょうか」


 僕の耳元で囁いていた声は、もう聞こえない。

 美香さんも三鷹さんも、顔色が良くなり落ち着いたみたいだ。



 国会までは、もうすぐ。

 僕達は気合を入れて、歩むスピードをを上げた。


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