そして黒歴史は繰り返す




 僕は、




 僕は今、




 セーラー服を、また着ている。




 しかし前と違うのは、今回は紺を基調としたものだということ。

 後はウィッグを被せられて、化粧もほどこされているということ。


 それがいいことなのかどうかなんて、考える間もなく女装をしたくないという結論が出てくる。

 もう二度と、着ることは無いはずだった。

 まず一回着たことでさえも、黒歴史として封印しておく記憶だったはずなのに。



 こうして、また着ている。




 勘違いしないで欲しいのは、これは僕の本意でしているわけではないということだ。



 美香さんが思いついた作戦というのは、変装をするというものだった。

 ありきたりかもしれないけど、最近は色々な洋服やウィッグなどがある。


 それを駆使した結果、まあまあバレなさそうなクオリティになった。




 僕はノリと悪ふざけのせいで、セーラー服。

 美香さんは、本人の希望で僕と同じセーラー服。三つ編み眼鏡が、とても似合っている。可愛い。


 スーツだった三鷹さんは、眼鏡を外してオールバックにして、先程までの剛埼さんのような軍服を着ている。結構似合っていると思う。



 そして剛埼さんはというと、ウサギの着ぐるみを着ていた。

 彼の服をどうするかが一番の問題で、どんな服を着ても筋肉で彼だと分かってしまう。

 だから諦めかけていた時に、三鷹さんがそれを見つけたのだ。


 剛埼さんでも、無理やり詰め込めばなんとか入った。

 見た目は可愛らしいデフォルメされたウサギなのだけど、雰囲気がどこか恐ろしいのは気のせいか。



 まあ、でも僕達を知らない人から見れば、分からないだろう。

 何だか全員、コスプレのようで恥ずかしいが、バレそうにはなかった。




 現に、今は外を歩いているのだけど、どこからか襲ってくる人は今のところ現れていない。

 美香さんプロデュースは、とても上手くいったみたいだ。



「一子ちゃん。どうしたの、考え事?」



 セーラー服は嫌だけど、美香さんと同級生設定は良いな。

 変な扉が開きそうになるのを必死に阻止しながら、遠くを見ていたら、美香さんが覗き込んできた。


 眼鏡に三つ編みをしていても、可愛さは半減していなくて、きっと学生だったらマドンナになっていたはずだと思う。



「うん。僕には、これが似合わないと思って」



 それを伝えはせずに、スカートの裾を持って笑った。



「えー、そうかな。似合っていると思うけど」



「それは絶対にないよ」



 似合っていたら、それは男としての何かが無くなる。

 彼女の返答に苦笑いを浮かべて、僕は誤魔化した。





 こんな姿は、絶対に家族に見せたくないな。

 笑われてバカにされて、一生のネタになる。


 どこかで生きているだろう母と姉に出会うことのないように、僕は必死に祈った。



 しかし、それは一般的にフラグというのである。




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