……嵐の予感




 さすがに時間稼ぎが出来るほど、僕のメンタルは強くなかった。

 僕は大人しくなって、指示通りに歩き出す。



 しかし何も言わなくなったとはいっても、これから先どうするかは考えていた。



 剛埼さんを殺す、そうはっきりと宣言した三鷹さん。

 剛埼さんに限って、まさか殺されるなんてことは無いだろう。

 それでも素直に行くというのも、負けを認めたようでモヤモヤする。


 メンタルは攻撃されていたけど、まだ僕は諦めていなかった。

 無駄なあがきかもしれないけど。

 口は開かずに、僕は行動でそれを示した。



 冷静に考えたら、絶対にやるべきではなかった。

 でもこの時は、何かアドレナリンが出ていたのか、体が勝手に動いてしまったのだ。



「なっ?」



 三鷹さんの驚いた声。


 どうしてそうなったのか。

 それは、僕が後ろを振り向かないままに逃げ出したからだ。


 不意をつかれたからか、銃口は外れて逃げ出すことが出来た。

 しかし、それだけだった。



「下手なことをすれば、引き金を引くと言いましたよね。ヒーローにでもなったつもりだったのですか?」



 すぐに捕まった僕は、今度は眉間に銃口を向けられていた。

 きちんと見たので、本物の銃だってことは確認出来る。


 それがいいことなのか悪いことなのか、絶対的に後者である。


 確認する前ならば、銃じゃなかった可能性もあったのに。

 僕の生存率は、底辺まで下がった。


 何て馬鹿な真似をしたのかと思われそうだけど、全く後悔はしていない。

 それに僕の行動は、間違ってはいなかった。



「何を笑っているんですか? 今から殺されようとしているのに。ヤケでも起こしたんでしょうか」



 僕が笑っていることに気がついた三鷹さんは、忌々しげに眉間にしわを寄せる。


 剛埼さんと同じぐらいの年齢の、神経質な性格そうな顔。

 眼鏡をかけていて線が細くて、どちらかといえば整っている。

 でも性格が悪そうだから、あまり女性にはモテないと思う。


 きっと剛埼さんの方がモテそうだから、それも三鷹さんにとっては苛立ちの原因になっていそうだ。



 こんな冷静な分析ができるぐらいには、僕は落ち着いていた。

 別にヤケを起こしたからではない。

 大丈夫だという確信を持ったからだ。



「……遅いですよ」



「……? 何のことですか?」



「悪かったなあ。でも計画と違っているから、勘弁してくれ」



「っ!?」



 僕と三鷹さんが色々としている間に、ようやく剛埼さんの方がこちらに来てくれた。


 これで助かった。


 僕は、心の底から安心した。





 未だに、銃は眉間に向けられたままだけど。



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