まあ、死ぬわけはない




 剛埼さんへ。

 人の名前は、きちんと覚えておいてください。

 高田さんじゃなくて、三鷹さんです。

 たか、しか合っていません。


 そのせいで、僕は命に危機に瀕しています。



 せっかく緩めてもらった力が、また強くなった。

 ぐりぐりぐりぐり。

 撃たれなくても、その力で穴が開きそうだ。



「ごごごごめんなさい。三鷹さん! 僕が思い違いをしていたみたいです! だから気持ちを静めて! 僕の頭がへこんでいる気がします!」



 刺激しないように、命の危機を脱する。

 僕はその目標を元にして、三鷹さんに話しかけた。



「うるさいですよ。叫ばないでください。大きな声を出されると、頭が痛くなるんですよ」



 少しは落ち着いたのか、先程の自分のことは棚に上げて、苛立った声で言ってくる。

 その理不尽さに怒りを感じなかったわけではないけど、我慢して声のボリュームを抑えた。



「あー、えっと。すみませんでした。銃を向けられるのは、初めてなもので。パニックになっても仕方が無いですよね。僕はそこら辺にいるゴミですから」



 なんか皮肉めいた言い方になってしまったけど、向こうは気にしていないみたいだ。

 ゴミの言うことなんて、どうでもいいというわけか。


 それでも力は弱くなってくれたから、多少のへこみで済みそうだ。

 全く嬉しくないけど。へこんでいたら、責任を取って欲しい。



「全く、無駄な時間を過ごしましたよ。早く進めたいんですから、こんな所で遊んでいる暇はないんです」



 それにしては、名前を間違われて取り乱していた気がするけど。

 僕は胸の中にそっとしまって、振り向こうとした。



「ああ、振り向かなくていいです。あなたには人質になってもらいますから。まあ、人質の価値があるとは、到底思えませんが」



 しかし、またグリグリと銃口を押し付けられて、振り向くことは出来なかった。



「……僕を人質にして、どうするつもりですか?」



 振り向くことが出来ないから、僕は代わりに尋ねる。



 そうすれば、馬鹿にしたような笑われる。



「そんなの決まっているでしょう。……剛埼を殺すんですよ」




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