剛埼さんとの因縁の相手と
頭の後ろに銃口を押し付けられて、僕は今までで一番死を感じていた。
「早く立ってもらえませんか? あまり気が長い方ではないので、指が疲れて引き金を引いてしまうかもしれません」
状況を理解している時間を、相手はくれないみたいだ。
考え事を邪魔するように、グリグリと痛いぐらいに銃口を強く押し付けてきた。
「分かりました分かりました。今立ち上がりますから、僕みたいな一般人に物騒なものを使いすぎですよ」
このまま考えていても、答えは出なさそうだ。
僕は降参のポーズをして、ゆっくりと立ち上がる。
「そうです。馬鹿なことを考えないように。もし少しでも不審な動きをすれば、あなたの顔は風通しが良くなりますよ」
言葉遣いは丁寧だけど、背中に感じる威圧感は大きい。
僕は冷や汗が止まらない。
剛埼さんの話から、雑魚キャラを想像していたけど、思っていたよりも手強い人かもしれない。
「そ、それは嫌ですね。僕は、このとおり無害な人間ですよ。もう少し穏便に物事を進めてもらえないと、ショックで心臓が止まってしまうかもしれません」
立った後、すぐに動いても良かったけど、僕は少しだけ時間を引き伸ばすことにした。
時間稼ぎが必要ないとしても、少しだけ落ち着いて話をしようと思ったのだ。
多分、剛埼さんのところに行ったら、落ち着いて話をしている場合じゃなくなるだろうし。
「……確かにあなたは、そこら辺にいるゴミみたいですね。どうして今まで生き残っているのか、とても不思議ですよ」
無害アピールが通じたみたいで、頭に押し付けられている力は、少し弱まった。
それは良いことだけど、ゴミと同列にされたのだから、素直に喜べなかった。
「まあ、それは僕も不思議に思っていますよ。普通だったら、最初の方で殺されているような感じですからね。ここまで生き残っているのは奇跡か、それとも……」
剛埼さんの名前を呼ぼうとして、慌てて言葉を飲み込む。
せっかく比較的穏やかに会話出来ているのに、名前を出したら台無しになってしまう。
しかし相手には、口に出さなくても伝わってしまったようだ。
「……剛埼。本当に私をイライラさせる天才ですよ。先程の放送も見ていましたよ。私のことを、田中って呼ぶとはねえ」
後ろから感じる威圧感が、大きくなってしまう。
僕は慌てて、落ち着いてもらうために名前を呼んだ。
「おおお落ち着いてください! 高田さん!」
「私の名前は、三鷹だあああああ!」
あ、死んだな。
僕はその叫び声に、自分の死を悟った。
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