全国放送中
……三、二、一、スタート
軽やかな音楽と共に、剛埼さんの顔がズームになる。
そのカメラワークは上手い。
まるで本業の人みたいだ。
見とれかけたけど、ぼーっとしている場合じゃないと、慌ててマイクで呼びかけた。
「生放送ですから、そのうち乗り込んでくる可能性もあります。手短に話を終わらせるようにしてください」
剛埼さんに呼びかければ、画面の向こうの彼が、耳を押さえて軽く頷いた。
『俺は剛埼だ。俺を知っている奴にだけ呼びかけているから、よおく聞けよ』
いつもの感じで、剛埼さんが話し出す。
彼の辞書の中には、緊張という言葉はないのではないかと思うぐらい自信満々だ。
まあ、その方が煽る効果としては絶大だろう。
『俺はここにいる。お前なら、どこかなんてすぐに分かるだろう。逃げも隠れもしねえから、こっちに来いよ。相手してやるからなあ』
挑発的な笑顔で、画面に向けて呼び寄せるジェスチャーをする。
もしもこれを自然にやっているとしたら、彼には人を煽る才能があると思う。
『まあ、ひよって来られるわけがないだろう? 弱虫だからなあ。画面の向こうで震えて、ママに慰めてもらいな』
『………………えーっと、………………田中だっけか……?』
「だからそれは、僕の名前ですから!」
いい感じに決まっていたのに、最後の最後でやってくれた。
僕は頭を抱えて、マイクに向かって叫んだ。
『あー、悪かったなあ。わざとじゃないんだぜ。変態君』
それは剛埼さんの耳にも入って、そして申し訳なさそうに笑っている。
しかしその声は、全国に流れているのだ。
僕はグダグダな展開になる前に、早く止めようとスイッチに手を伸ばした。
「あー、すみませんけど。ここで何をしているんですか」
スイッチを押そうとした手は、頭の後ろに硬いものを押し付けられた感覚がして、押す前に止まった。
後ろから、優しげな妙齢の男性の声がする。
「ごめんなさい。間違えました?」
見ていないから分からないけど、押し付けられているのは、銃口じゃないか。
僕はそう予想して、こめかみから冷や汗を流した。
考えていたよりも、随分来るのが早すぎる。
もしかして、最初から仕組まれていたのか。
待ち構えられていたのは、僕達の方だったのかもしれない。
今更後悔しても、もう遅い。
「さあ、行きましょうか。あの男のところに」
高田さん(仮)は、心底憎しみを込めた声でそう言った。
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