車で再び移動





 剛埼さんの作戦は、荒唐無稽だけど一番効果のあるものだった。

 だから最初は渋りかけた僕達も、最終的には納得した。





 そして僕達は、首相の家から離れて車で移動している。

 家の中から食料をたくさん持ってきていたので、しばらくは持ちそうだ。



 部屋の中で未だに気絶している人達が、ゾンビに襲われないために、家のセキュリティは厳重にしておいた。


 向こうには襲われたけど、ゾンビに食べられてしまえと思うほど恨んではいない。

 むしろ、そうやって死んでしまうと思ったら、夢見が悪くなる。

 僕達は、優しさを見せたのだ。

 人殺しになんて、なりたくはないから。


 誰かが様子を見に来れば、きっと助けてもらえるだろう。

 その確率の方が高いから、みんな助かるはずだ。

 敵に対して、そんなことを思うなんて僕もまだまだ甘い。



「剛埼さんは眠くないんですか。み、美香さんも。二人共、寝ていないんですよね」



「ああ? 俺は少し仮眠をとったから、大丈夫だ。元々、あまり寝る方じゃないからなあ。雫石ちゃんは大丈夫かあ?」



「私も大丈夫。何だかドキドキしていて、眠ろうと思っても眠れない」



 僕だけ仮眠させてもらったけど、二人はどうなのだろうか。

 そう心配して聞いてみたら、全く大丈夫だという答えだった。


 僕は未だに眠いのに、二人共とても強い。

 大きくあくびをして、助手席で目を閉じる。


 向かう先は、ここからどのぐらいかかるのだろうか。

 剛埼さんに尋ねてみたけど、知らないという答えが返ってきた。

 でもナビを使っているから、迷うことは無いだろう。


 眠くないというのなら、安心して任せようと思う。

 目を閉じていたら、いつしか僕は眠りについてしまっていた。





「おい。変態君。起きろお。ついたぞ」



 剛埼さんの声と共に、体を揺すられる。

 僕は、眠りから覚醒した。



「あ、ごめんなさい。寝ちゃっていましたか」



「気にすんな。きちんと眠っていなかったら、動きが鈍るからなあ」



 目を覚ませば、剛埼さんよりも美香さんの顔の方がドアップで映った。

 何て幸せな目覚めだろうか。


 僕は目をこする。



「ここ、ですか」



「おお。ここが一番、近かったからなあ。行けるか?」



「大丈夫ですよ。起きます。僕も頑張らせてください」



「そうね。また楽しいことをしましょう」



 僕達は車から降り、武器をカバンいっぱいに詰め込んだ。

 そして高い建物を、全員で見上げた。



「さて、行くかあ」



「はい」



「オッケー」



 剛埼さんの合図で、中へと入る。

 そこは、いわゆるテレビ局というものだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る