起こされ方も、平和とは程遠い





 夢の中で、天使のコスプレをした剛埼さんに、勢いよく殴られて吹っ飛んだ。

 そしてそのまま、僕は真っ逆さまに落ちていった。


 フワフワとした雲の上にいたはずなのに、今は真っ黒な空間の中を、ただただ落ち続ける。

 最後には地獄に行くのではないか。




 そんな不安に駆られた頃、一気に体が浮いた。

 腕を掴まれて、引き上げられて、そして僕は。







 勢いよく起き上がった。


 夢から覚めた。

 心臓がバクバクと大きく鳴っていて、本当に真っ逆さまに落ちたかのような気分だった。


 呼吸が荒く、深呼吸をしてなんとか落ち着かせる。

 疲れを取るために寝ていたはずなのに、疲れているなんて意味が無いんじゃないか。



 僕は痛む頭を抱えて、周りを見た。




「な、何が、あったんですか?」




 周囲は、地獄絵図が広がっていた。

 今まで起きなかったのがありえないほど、僕が寝ている間に色々なことが起こったみたいだ。



「おはよお。ねぼすけ君。お前が寝ている間に、楽しみは全部終わったぜえ」



 ベッドの脇にいた剛埼さんが、銃を片手に僕の方を見て笑った。


 僕は、まだ夢を見ているのだろうか。

 剛埼さんの格好は、軍人っぽいものから真っ黒のスーツに変わっていた。


 天使の格好よりはマシだけど、サイズが合って無いのか筋肉のある部分が窮屈そうに見える。

 いつの間にか着替えたのだろう、窮屈でなければ似合っていたのだと思う。

 しかし今は、微妙なコスプレにしか見えない。



「あ……おはようございます。えっと……何があったんでしょうか?」



 その格好のことはスルーして、僕はとりあえず状況の整理を優先する。



「ああ? 見て分からないのか? まあだ、寝ぼけているのか」



 それに対して、剛埼さんは呆れた顔をするけど、今の状況を理解出来る人はそうそういないはずだ。


 ゾンビが襲撃して、それを倒したからベッドの周りに死体が転がっているとかなら、まだ分かる。分かりたくはないけど。


 でも、今僕が寝ているベッドの周りで倒れているのは、どう見ても普通の人間のようだ。

 全く起きなかった僕も悪いけど、どうしてこうなったのか説明を受ける義務はあるだろう。



「えっと、この人達は誰ですか?」



「ん? 知らねえなあ」



「えっと、何をしに来たのでしょうか?」



「知らん。襲ってきたから、倒しただけだ」



 剛埼さんには、圧倒的に言葉が足りない。

 とにかく理解出来たのは、この人達が敵だということだけだろう。


 それなら、こんな風に倒されているのも仕方のないことか。



 僕は、考えるのを放棄することにした。

 その方が、平和だろう。




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