仲間も拠点も失い




 簡単に、デパートの食料のことは諦めた。

 裏切られたわけだけど、それを誰も気にしていない。

 元の三人に戻って、むしろ感覚を取り戻した気分だった。



「さあて、今度はどこにドライブしたい?」



 何も言わずに運転手になってくれた剛埼さんは、僕達の方を見て尋ねてきた。


 尋ねられた僕達は、顔を見合わせて考え込む。

 ずっと行き当たりばったりで行動しているから、どこに行きたいかなんて思いつかなかった。


 さて、どうしようかと困っていると、眠気が襲ってくるのを感じた。




 見れば、雫石さんもさすがの剛埼さんも、とても眠そうだ。



 他の二人はどうか知らないけど、思えば昨日から寝ていない。

 アドレナリンが出ていたせいか、今まで眠くなかった。



 しかし眠気を自覚してしまってからは、もう駄目だ。

 まぶたがどんどん落ちてきて、あくびが止まらない。

 あくびのせいで涙が出てくるから、僕はそれを拭って提案した。



「どこか、落ち着いて眠れるところに行きませんか?」



 二人も限界だったみたいで、すぐさまオーケーしてくれた。






 さて、どこに行くべきかという話になって、色々な案がでた。

 落ち着いて眠れる場所。

 簡単に言っても、中々無い。


 眠っている時は無防備だから、セキュリティが厳重なところでないと安心出来ない。

 いくら剛埼さんがいるとは言っても、完全はないのだから。

 眠っている間にゾンビになっているなんて、笑えない話だ。


 ホテル、オフィスなども出てきたが、どれもが決定打に欠けた。


 車の中で行き詰まりかけていると、雷に打たれたかのような衝撃と共に、頭の中で候補が浮かぶ。



「あの、著名人の家とかはどうでしょう?」



「家?」



「はい。そこなら食料も多少はあるでしょうし、セキュリティもしっかりしていると思いませんか?」



「確かにそうかもなあ」



 二人の感触は悪くない。

 僕は数ある候補の中から、とある人の名前を上げた。

 最初は驚いていた二人も、理由を聞いて納得してくれた。







 そういうわけで、僕達はその家に来ている。

 なぜ場所を知っているのかと言うと、それはネットの力である。

 前に気になって調べたことが、こんな時に役立つとは思わなかった。


 厳重なセキュリティは、昔やんちゃしていた雫石さんが何とかしてくれる。

 だから、上手く中に入ることが出来た。



「さすがに、セキュリティが今までで一番だったわ」



 頑張ってくれた彼女は、額の汗を拭いてため息を吐く。



「確かに大袈裟なぐらい、厳重だよなあ」







「まあ、無理もないですよ。ここは、首相の家なんですから」





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