裏切りは突然起こる




 話をしていたのは一番上の階だったから、フードコートのところまで戻るのに時間がかかる。



 色々なところの電気がとまってきているので、エレベーターやエスカレーターは動かない。

 どういった回路をしているのか分からないけど、冷蔵庫がまだ動いているのは、とても都合が良くありがたい。



 僕達は階段を使って、少し小走りに降りていった。

 時間まではまだまだ余裕があったけど、早めに行こうと思ったのだ。



「なあんか、いやな予感がするなあ」



 鼻を動かしながら、剛埼さんは眉間に皺を寄せて言った。

 その考えには、僕も同意する。

 なんだか、空気が澱んでいる気がするのだ。



 これから、嫌なことが起こりそうな。

 そんな感じだ。



 そのせいもあって、降りるスピードを速めているのだけれど。





 どうやら、手遅れだったみたいだ。





「ああ、おかえり。思ったよりも早かったね」


「これは一体、どういう状況だあ?」



 すでにフードコートには、桐島さん達三人が揃っていた。

 出迎えの言葉を言ったが、言動が全く一致していない。



 待っていた三人は、短時間にバリケードを制作していたみたいだ。

 たまに荷物を置きに来ていたのに気が付かなかったから、とても巧妙に作っていた。


 バリケードの対象は、主にゾンビに対してだろう。

 しかし、その中に僕達も入っていた。

 バリケードは高さもあって、無理やりでなければ入れない仕様になっているのだ。



 バリケードを見上げる僕達、それを隙間から嘲笑っている桐島さん達。

 そんな構図が出来ていて、嫌な予感が当たってしまったのだと分かった。



「ごめんね。君達とは、仲良くなれそうだと思ったけど、こんな世界だから。人数は少ない方が、食料とかももたせられるだろう」



 全く申し訳なさそうな顔をしていない桐島さんが、僕達に形だけの謝罪をしてくる。



「あ、集めてくれた食料は、僕達でありがたく使わせてもらうよ」



 鈴木君は、隠しきれない笑みを口元に浮かべている。



「せいぜい頑張って生き残ってね」



 川田さんは、馬鹿にしたようにアドバイスをしてきた。



 明らかに裏切られた僕達は、しかしバリケードを壊すことはしなかった。

 大きな理由としては、フードコートに武器は置いていなかったことが大きいだろう。



「まあ、何日もつかの籠城。頑張ってください」



 それに、こんなバリケードを作ってしまったら、ゾンビが来た時に逃げるのに時間がかかってしまう。

 食料だって、人数が少なくてもいつかは無くなる。

 そうなった時に、どうやってそこから出るのかが見物だと思う。




 こういった理由もあって、僕達は取り返すという行動を起こすことなく、彼等と別れることに決めた。



「ああ、でも……」



 見切りをつけて、その場から立ち去ろうとした僕達に、桐島さんが声をかけてくる。



「剛埼さんと雫石さんだけなら、残ってもいいよ?」



 その提案は、あまりにも僕のことを馬鹿にしていた。

 目の前が赤くなるのを感じながら、僕は桐島さんの顔を睨みつける。



 彼は涼しい顔で、更に言葉を重ねた。



「二人がいてくれれば、ゾンビが来ても心強いし。どうかな?」



 そう言われた二人は、同時にニヤリと笑った。



「残念だが、俺は変態君と一緒じゃなきゃ無理だなあ」



「あなた達は知らないでしょうけど、田中君は頼もしいわよ」



 両肩にそれぞれ手を置かれ、僕は嬉しさから涙が出てきそうになる。

 今までの僕の働きを考えたら、見捨てられても文句を言えなかった。


 それでも二人は、僕を必要としてくれる。

 まるで天にも登る気持ちだ。



「……そう、残念だよ。君達は、もっと賢いかと思っていた」



 二人の返答に肩を竦めた桐島さんは、それ以上は引き留めなかった。

 代わりに馬鹿にしたような顔で、二人を嘲り笑った。



 いい人かと少しは思っていたけど、僕の考え違いだったみたいだ。

 早めに、それが分かることが出来て良かった。



 僕達は、今度こそその場から離れる。








 バリケードから出ようとしたら発動する爆弾を、桐島さん達には気づかれないように設置した剛埼さんの行動は、きっと優しさからなのだろう。





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