束の間の休息からの




 僕の話を聞き終えた二人の反応は、バラバラだった。



「す、すごいね」



 雫石さんの顔は、なんとか笑みを浮かべようとしていたけど、失敗して引きつっていた。

 これが、普通の反応だ。

 僕もたぶん、同じような顔をしている。



「いいなあ! ぜひ会ってみたい!」



 剛埼さんは、何故かテンションが上がっていた。

 僕は遠い目をする。

 家族と剛埼さんを会わせたら、普通に気が合いそうだ。

 仲良くなった姿が想像出来てしまって、僕は乾いた笑いを浮かべた。




 こんな世界になってから、二人は仲がいいから合流をしているはず。

 もしそうなったら、剛埼さんと同じぐらい無双状態になっているだろう。


 僕の周りにいる人は、何故かゾンビの方を可哀想にさせる。

 頼もしい限りだけど、同時に胃が痛くもなる。



 僕の予想だと、合流した二人は家にある武器を取りに行ったはずだ。

 僕は使ったことが無かったけど、だいぶ使い古されている銃や鈍器。


 それを集めて、外に出て手当り次第ゾンビを倒しているだろう。



 その様子が映像で現れて、また乾いた笑いが出てきた。

 本当にあの二人だったら、剛埼さんと気が合いそうだ。

 だからこそ、絶対に会わせてはいけない。


 そう僕は、心の中で固く誓った。





 家族のことを思い出して、僕の胃は昔のようにキリキリと痛んだ。

 その痛みを紛らわせるように、話題を変えた。



「もうそろそろ時間ですかね。フードコートに戻りますか?」



 上手いやり方なんて分からないから、明らかに話をそらしてしまった。

 そうすれば、大人な二人は受け入れてくれる。



「……そうね、行きましょうか」


「腹も減ったしなあ」



 確かに朝ごはんを食べていないから、お腹が空いてきた。

 自覚してしまうと、そのことしか考えられなくなる。


 急に鳴り出したお腹をさすりながら、僕はゆっくりと立ち上がった。

 二人も同じように立ち上がり、ゆっくりとしたスピードでフードコートへと向かう。



 歩幅が違うから、剛埼さんが少し前の方に行ってしまった。

 雫石さんと並んで歩くのは、とても気まずい。


 今まで調べていた時も、何も話すことがなくて無言だったのだ。



「あのさ」



 きっと僕のことなんて、視界にすら入れてもらえていない。



「聞いている?」



 虫けらよりも酷いかもしれない。



「ねえったら、田中君!」


「は、はい!?」



 突然肩を掴まれて、僕は変な声を上げてしまった。

 掴んできたのは隣にいた雫石さんで、眉間に皺を寄せて怒った顔をしている。



「何度も呼んでいるのに。無視しないでよ」


「え、えっと、ごめん。えっと、どうしたの?」



 無視していたわけじゃないから、慌ててそれを分かってもらうために、大げさに手を振る。

 その様子で分かってくれたみたいで、彼女は呆れた顔に変わってくれる。



「あのね、どうでもいいことかもしれないけど」


「うん」


「今度、あなたの家族に会ってみたいな」



 それは、喜べばいいのだろうか。


 僕は微妙な顔をしてしまいそうになる。



「あー、うん。機会があったらね……」



 多分会わせることはない。

 そう思ったけど、一応頷いておいた。



「約束ね」



 僕の返事に満足した彼女は、柔らかく笑った。

 初めて自分に向けられた笑顔だったけど、理由が理由だから、あまり嬉しいとは思えないのが残念だ。



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