ようやく入店、着替え




 ゾンビをせん滅するのに、三十分もかからなかった。

 それだけ、みんなの息は合っているみたいだ。



「お疲れ様です」



 見ていた僕が出来ることといえば、疲れているみんなのためにペットボトルの水を渡すぐらいだ。

 みんなの疲労は、色々とあって溜まっていたらしい。

 いつものように動くことはせずに、その場に座り込んでいた。




「おお。ありがとうなあ。ちょうど喉が渇いていたから、助かる」



 たくさんの量のペットボトルを抱えて、それを手渡す。

 剛埼さんは、とても喜んでくれたから、この行為だけでもいる価値はあると思いたい。

 他の人の視線が痛いけど、きっと気のせいだ。

 僕は震える手で、それぞれに渡していく。


 ペットボトルの水を飲んで一息つくと、しゃがんでいたみんなはゆっくりと立ち上がる。



「ゾンビも倒し終わったし、中に入ろうか」



 桐島さんの言葉に、みんなが同調する。

 剛埼さんと二人で、とてもいいコンビのように思えた。

 きっとみんなを導く、ヒーローのような存在になれるだろう。



 ここにいるだけで、僕の卑屈さはどんどんエスカレートしていく。

 みんなが置きっぱなしにしたペットボトルを片付けて、一番最後についていった。

 僕がここでいなくなっても、しばらくは誰も気がつかないはずだ。


 そんな、卑屈なことを考えて。





 ようやく入ることのできたデパートの中は、想像よりも荒れてはいなかった。

 多少地面にゴミが落ちていたり、商品がばらまかれていたりするけど、ほとんどのものは大丈夫そうだ。


 これなら、しばらくの間は、ここを拠点に出来るだろう。

 僕達は早足で、店内の状況を確認し、最終的にフードコートに腰を下ろした。



 途中に寄った店で、それぞれの着替えは獲得済みだ。

 僕も無難な洋服を持ってきていて、すでにそれの着替えていた。

 鏡を見ていないから確かではないけど、たぶんモブらしさが強くなった気がする。



 剛埼さんと桐島さんは、ミリタリーっぽい格好。

 雫石さんと川田さんは、タンクトップではなくなったけど、露出の激しい格好だ。

 動きやすいのかもしれないけど、ゾンビに対する防御力は弱すぎる。

 そして、鈴木さんはというと、おそらく初めて着たのだろう、イキった格好をしていた。


 着慣れていないから、ものすごくダサい。




 それはみんなが感じていることなのか、生暖かい目で見つめていた。

 きっと気分は、中学生の息子が初めてオシャレに目覚めた親だろう。



 そんな僕達の視線に気がつくことなく、鈴木さん本人は満足気な顔をしていた。



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