多い仲間は




 こちらに向かってきている大量のゾンビ。



 僕の叫びに気づいた六人は、サッカーを中断して集まってくる。


「なんだなんだあ。……お、ありゃあ。いい獲物だねえ」


 剛埼さんは、こちらに向かってくるゾンビに気がついて、キラキラと目を輝かせた。

 そして、いつの間にか、その手には銃を持っている。


 いや、剛埼さんだけじゃない。

 他の五人も、それぞれ銃を持っていた。


 サッカーからの、切り替えが早い。

 僕はそれを見ながら、この人達はこうなる前の世界は生きづらくなかったのだろうかと、どうでもいい心配をしてしまった。



 それは剛埼さんが、ゾンビの頭を小脇に抱えているのが視界に入ったせいもある。

 ゾンビの頭を、どうするつもりか。

 しかし僕が頭の中で想像する前に、それは実行に移された。



「おーらよお! もういらねえから、返す!」



 勢いよく投げられた頭は、向かってきているゾンビの群れの中心に飛んでいく。

 そして数体、どころか十数体を、その一撃で倒した。


 容赦の無い攻撃に、絶対に大丈夫だという安心感が僕の中に宿った。



 頼もしい剛埼さんだけじゃなく、他にも強そうな人達がいる。

 ゾンビがたくさん来ても、これなら勝てるだろう。



 だから僕は安心しつつ、ベルトから銃を抜いた。





 このやり取りの間に、ゾンビはあと少しまで迫っていた。

 それぞれ緊張感を持って、辿り着くのを待ち構える。



 最初に動いたのは、やはり剛埼さんだった。



「おらおら、一列に並びなあ! 死にたい奴から、殺してやるからよお!」


 持っていた銃で、向かってくるゾンビを正確に撃っていく。

 セリフの勢いとは裏腹に、丁寧に確実に仕留めていた。


 剛埼さんのおかげで、たくさんのゾンビを倒すことが出来た。

 そして、力を発揮したのは剛埼さんだけではない。


「俺の分も残しておいてくれよ。俺だって、たくさん殺しておきたいからさ!」


 桐島さんが、剛埼さんの隣に出てきて、銃を構えた。

 手に持っている銃が、僕にはマシンガンに見える。


「それじゃあ、死ね」


 顔に似合わず、豪快な性格みたいだ。

 勢いよく引き金を引いて、乱射をし始めた。


 この二人がいれば、何とかなるな。

 まるで映画の主人公のような二人を、安全な場所から見る僕。



「……うわあ、いいね」


 僕の隣で、雫石さんが小さく呟いた。

 その視線の先には、剛埼さんの姿がいる。



 こうして、恋は始まるのかな。

 唐突に思ってしまった。

 今のこの状況ならば、剛埼さんを好きになっても仕方がないか。



 僕を好きになってもらうなんて、夢物語だったんだ。

 いつもと同じ。

 諦めの感情を胸に抱え、僕はそっと下を向いた。



 下を向いたのは、数秒のことだった。

 しかしそれだけで、状況は一変する。




「あ、危ない!」



 誰かのそんな声が聞こえてきて、慌てて顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、ゾンビに肩を掴まれて襲いかかられている剛埼さんの姿だった。



「剛埼さん!」



 僕は叫んだ。

 そしてその瞬間、剛埼さんの首を噛みちぎるべく、ゾンビの口が大きく開いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る