本当の話をしよう
ひとしきり二人が笑った後、改めて真面目な雰囲気になった。
「それで? 実際のところは、どうなんだあ?」
剛埼さんの問いかけに、彼女は少し黙る。
しかしすぐに、あっけらかんと話し出した。
「私、警察に捕まっていたのよね。別に人を殺したとか、そういうのじゃないから。窃盗と詐欺。それだって、馬鹿な男が騙されただけ」
顔と言っている内容が、全く合っていない。
僕の中で勝手につくりあげていた、彼女に対するイメージが崩れていくのを感じる。
女神のように優しい姿は消え去って、悪魔の羽が見えてきそうだ。
僕は目をこすり、そのイメージを消そうとする。
しかし消える気配はなく、むしろ濃くなってきた。
「それでパトカーに乗っている時に、ゾンビに襲われたの。そのどさくさに紛れて、逃げ出した。だからゾンビからというより、警察から逃げていたってわけ」
「どう? これで満足してくれる?」
話を終えた彼女は、ニッコリと笑った。
その笑みの後ろで、蜘蛛の巣のイメージも見えてくる。
完全に、僕の中で彼女は悪女になった。
しかし嫌いや苦手だと思えないのは、やっぱり美人だからか。
綺麗な薔薇には、棘がある。
その方が、魅力的に感じる。
僕はきっと騙されやすくて、彼女の言う馬鹿な男の中に入っているのだろう。
それでも構わないと思ってしまうぐらい、僕は愚かだった。
「おお。おお。さっきよりも、良い話になったなあ」
「お気に召したようで、なによりだけど。私、犯罪者よ? それでも、いいのかしら?」
「こんな世界になっちまったら、犯罪者なんて関係ねえよ。ゾンビかそう出ないかだ。だからゾンビにならない限りはあ、みいんな仲間だ」
「……あなた、とっても変な人ね」
「なあんでだかしらねえが、よく言われるなあ」
「そうでしょうね」
彼女の話に嘘は無い。
それは、剛埼さんが証明した。
何故だか分からないけど彼はとても嬉しそうに笑い、後部座席に手を伸ばして頭を撫でた。
「まあとにかく。嘘を言わなかったのはあ、偉いぞお」
「なっ! ちょっ、え? …………ありがとう……」
それを振り払うことなく、口を尖らせて彼女は受け入れる。
その表情は、嫌悪感が無くて、少し恥ずかしがっているように見えた。
僕は羨ましがるとしても、どちらに対してすればいいのか、微妙なところだった。
いや、絶対に剛埼さんを羨ましいと思うべきだ。
何だか非日常に、頭がおかしくなっている。
僕は、まるで親子のような二人を見ながら、少しだけ安心感を覚えた。
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