ごり押しは大事




「どどど、どうするんですか? 剛埼さん!」


 たくさんのゾンビの群れを前にして、僕は剛埼さんの服の裾を握って揺さぶる。


「ああ? ああ? 止めろよなあ。気持ち悪くなるだろうう」


 簡単に揺さぶられる剛埼さんは、気持ち悪そうに顔をしかめる。

 それに気が付きながらも、焦ってしまい手を止められなかった。


「あのゾンビ、どうしてこっちに向かってきているの?」


 彼女も焦った様子で尋ねる。


「何でえ? そりゃあ、奴等の仲間を殺して回ったからなあ。怒っているんじゃねえかあ」


 しかし、連れてきた当の本人は、涼しい顔でとんでもないことを言い放った。



 彼のことだから、きっと銃を撃って回っていたのだろう。

 そうしたら音に反応して、ゾンビが寄ってきた。

 そしてそれを引き連れたまま、彼は車に戻ってきたというわけだ。


 こうなるのも、当たり前の話である。



 僕は呆れながら、それでも焦る。


「こっち来ていますよ! どうするんですか、もう!」


 僕は揺らし続けて、怒鳴った。


「ああ、うるせえなあ。何とかすればいいんだろう」


 さすがに気持ち悪くなったのか、面倒くさそうにしながら、やる気を起こしたみたいだ。


「早く、お願いしますよ!」


 車のエンジンがかけられる。

 その音に反応して、更にゾンビが向かってくるスピードを上げた。


 あと少しで、車まで辿り着いてしまう。

 一体、この状況をどう回避するのか。


 僕は剛埼さんに対する安心感があったけど、これをどうにか出来るとは到底思えなかった。


 この三人の中の、誰かは死ぬのではないか。


 そんな嫌な予想が、頭の中に浮かんだ。



「急かすなよお。そんなことをされたらなあ」


 しかしそんな不安を感じていないのか、剛埼さんは不敵に笑った。

 ギアの変えられる音。そして、彼は強く足を踏み込んだ。



「たあのしくなっちまうだろう!」



 慣性の法則に従って、僕はシートに背中を強く打ち付けた。




 剛埼さんは、勢いよくアクセルを踏んでいた。

 そして当たり前だが、車はものすごいスピードで走り出す。


 向かう先は、こちらに走ってきていたゾンビのところで。


 僕の気のせいかもしれないけど、ゾンビ達の顔がひきつっているように見えた。



「おらおらあ! どかねえと、ひいちまうぞお!」



 剛埼さんは、そう言いながら運転しているが、どいても轢く気であるのは誰にでも分かった。

 現に一匹も残さないように、念入りに轢いていた。


 僕は顔を引きつらせる。

 後ろにいる彼女の顔も、さすがに引きつっていた。



 現実逃避をしている間にも、多少の衝撃と血が車にかかる。

 しかし、この車が壊れる気配は全く無い。

 どれだけ頑丈な車なのだろう。


 剛埼さんの規格外だけど、彼が持っているものも全て、規格外なのだろうか。



 もう死ぬなんて言う不安も無くなって、僕はまた現実逃避をした。




 そして一時間も経たないうちに、この場にいた全てのゾンビが跡形もなくなってしまった。




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