ピンチは訪れる?
そして、剛埼さんが勢いよく入ってくる。
最初はそれが剛埼さんだとは分からなかったから、ゾンビだと思い驚いてしまった。
彼女も同じだったみたいで、可愛らしい叫び声を上げた。
銃を構えたけど、剛埼さんを見て安心する。
数時間ぶりのマッチョは、安心感をもたらしてくれた。
「ご、剛埼さん。驚かさないでくださいよ」
その顔を確認して、僕は力が抜けるのを感じる。
「剛埼さん? この人が?」
彼女も僕の言葉に、拍子抜けしたみたいだ。
少し恥ずかしそうな顔をしながら、僕を睨んでくる。
そんな顔をされても、可愛く叫んだ事実は変わらないし、僕が呼び寄せたわけではない。
「あらああ? ちょおっと出かけていた間に、女を連れ込んだのかあ。変態君は、やるなあ」
多少の返り血を浴びている剛埼さんは、彼女が後部座席に乗っているのに気が付いた。
そして僕を見て、にやりと笑う。
「変態君?」
剛埼さんのあだ名を訂正するのを忘れていてた。
駄目だと思った時には、もう呼ばれてしまった後だった。
彼女の不審な目が突き刺さる。
止めてくれ止めてくれ、剛埼さんを睨むが通じるわけが無かった。
「だあって、こいつう。最初にあった時に、セーラー服を着ていたからなあ」
僕にとっての黒歴史を、完全に暴露されてしまう。
突き刺さる視線の温度が、とても冷たくなった。
「ちちち違うんだ。好きで着たんじゃなくて、無理やり着せられたんだ!」
せっかく着替えて、セーラー服のことは忘れていたのに、何で弁解させられる羽目になっているのだろう。
僕は必死に、自分の趣味ではないことを主張した。
それは分かってくれたみたいだけど、いじめられていたことはバレてしまった。
可哀想なものを見る目が、四つ向けられる。
僕は居たたまれなくなって、地面を見つめた。
「セーラー服、まだあるから好きなら着てもいいぞお」
変な慰められ方をして、僕は小さく息を吐く。
「大丈夫です。着ません」
当たり障りないように、優しい口調で言っておいた。
「そうかあ。残念だなあ。結構、似合っていたんじゃないかあ」
いや、慰められているんじゃない。
この人は、ただデリカシーが無いだけだ。
僕は落ち込むのを諦めて、話題を変えることにした。
「それで、剛埼さんはどこに行っていたんですか?」
何も言わずにいなくなってしまったら、ゾンビに襲われてしまったのではないかと考えてしまう。
剛埼さんがいなくなって、本当に焦ったのだ。
その気持ちを込め、少し非難の意味を含んだ言い方をする。
「ああ? ちょーっくら探し物だよ」
「それならそうと、言っておいてくださいよ。どこに行ったのか分からなくて、心配したんですから」
「ああ? ちゃんとメモを残しておいただろう?」
「メモって、これのことですか?」
僕は一応、捨てないでおいたメモを取り出した。
「おおう。それだあそれ。ちゃあんと書いてあるだろう。『ちょっと出かけてくる』ってなあ」
「そう、ですか」
ため息をついて、メモは一応ポケットにしまった。
「それよりなあ」
「何ですか? ……」
「わりい。連れてきちまったみたいだあ」
メモの件は、これ以上話を広げても疲れるばかりだ。
そう思っていたら、謝られた。
しかし僕は、謝られる前から、その理由を察してしまった。
それは明らかだった。
車の外には、たくさんのゾンビがいた。
こちらに向かって、勢いよく走ってきている。
どう考えても、僕達を狙っていた。
ピンチである。
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